インタビュー:山本大貴―写実新世代の旗手は”若手ブーム”を越えて

2016年10月13日 12:05 カテゴリ:最新のニュース

「第27回 明日の白日会展」会場にて (8月19日撮影)

「第27回 明日の白日会展」会場にて (8月19日撮影)

 

今年8月、ある絵がTwitterで話題を呼んだ。山本大貴の作品だ。写真と見紛うかのような精巧さをもって女性のふとした仕草を捉えた油彩は、瞬く間に広まった。10月現在、そのツイートには3万もの「リツイート」と5万の「いいね」がついている。山本は2007年の「白日展」でのデビュー以来、次代の写実絵画の旗手として常に注目を集め続けてきた。個展やアートフェアで作品を出品すれば、即日完売するほどの人気作家である。そんな画家が10月26日より髙島屋日本橋店にて新作個展を開催する。

 

山本は絵画の制作を「映画づくり」に例える。「モデルをオファーし、脚本を描き、衣装や小道具を取り寄せて。撮影監督、演出、編集、照明など、制作の一環として行っています」。大学院修了後はゲーム業界を志したほどゲームに親しんできたが、映画から受けた影響も大きい。「名だたる映画監督達の作品は、どの時代を撮っていても一コマをみればその人の映画だとわかる。自分も大正や昭和を舞台に描くことがありますが、どの時代の人物を描いても一貫した個性を出せるようにしたいですね」。写真のようと形容されることも多いその油彩には、映画的な時間も流れている。対象へのひそやかな視線を感じさせる構図の由来は「壁一枚隔てた、落ち着く距離」だからと語るが、そこには監督としての、あるいは鑑賞者としての眼差しも含まれているのだろう。

 

《花の追憶》 45.5×60.6cm パネル、油彩

 

私生活について尋ねると、「今はちょっとしたスキマ時間や、好きなゲームをする時間すら仕事にあてていて。いっそ制作する機械みたいになってしまいたい」と笑う。「作品至上主義というか、作家は作品だけあればいいという考え方なんです。だから自分はある意味どうでもよくて。早くゲームやアニメに出てくるような電脳時代がきてほしい」。冗談めかした言葉だが、その真剣な目にハッとさせられる。

 

Twitterについては「朝起きたらすごいことになっていた」と振り返る。「たまたま画集(※『現代画家が描く 美と幻想の世界 妖しく美しい女性たち』綜合ムック刊)を見た方がツイートしてくださって。これがきっかけで一人でも自分の絵や美術全般に興味をもってくださる方がいれば嬉しいです」。

 

昨今セルフプロデュースが巧みな作家も多く見られるが、「必要なのは決してそれだけではないのでは」と口にする。「額の外の世界、すなわち画家の人間性なども含めて見せるのが最近の風潮ですが、僕は自分の全てのパワーや美意識を作品に注ぎたい。美術界には色々な作家がいるのだというバリエーションを示していきたいと思っています」。第一に願うのは「自分の絵が、社会とつながり“幸福になる”こと」。そしてその作品を取り巻く環境や、手に入れた人自身の生活が幸せになれば、それがなによりの喜びだ。

 

◆若手を守る“オゾン層”になりたい

 

8月に開催された明日の白日会展では、下の世代の作家が育ってきていることを改めて実感した。現在34歳。07年にデビューした際は、同年代の作家とともに「若手ブームの到来」と言われた。「ちょうど写実ブームとも重なって、実力以上にもてはやされたように思います。若手ブームなんてすぐ終わるよ、という声も少なくありませんでした」。それから10年経った今も人気作家として活躍し続けているのは、実力を確実に伸ばし続けているなによりの証拠だろう。「若手作家はデビュー後、慣れない環境で“紫外線”にさらされることも多い。そんな時、自分たち先輩作家が“オゾン層”となって彼らを守れるようになりたいと思います。よからぬ声や好奇の目を跳ね除ける、クッションのような役割を果たしていきたい」。今回の個展では新作約20点と大作を展示。かつての「若手ブームの牽引者」は、次の一歩を踏み出している。

(取材・文:岩本知弓)

 

《Reminiscence》 65.2×50.0cm パネル、油彩

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山本 大貴 (Hiroki Yamamoto)

 

1982年千葉県生まれ。2007年武蔵野美術大学卒業、卒業制作優秀賞受賞。09年同大学大学院修了後、大手ゲーム会社を経て画家の道へ。07年、第83回白日展に初出品で白日賞受賞。10年、第86回白日展で富田賞受賞。2011年、第46回昭和会展優秀賞受賞。画壇を代表する作家が一堂に集う「創と造」(旧・21世紀展)に昨年から出品するなど、同世代の中でも最注目の作家である。2011年から毎年、新作個展を開催している。

 

【展覧会】山本 大貴展 -Ceramic roses-

【会期】2016年10月26日(水)~11月1日(火)

【会場】髙島屋日本橋店6階美術画廊(東京都中央区日本橋2-4-1)

【TEL】03‐3211-4111(代表)

【休廊】無休

【開廊】10:30~19:30 ※最終日は16:00閉場

【料金】無料

 

【販売入場整理券配布について】
今展の作品の販売は「販売入場整理券」順。観覧のみ希望の場合は整理券不要。
整理券の配布は初日10月26日(水) 10:00~10:30の間、髙島屋日本橋店1階「駐車場口」にて。
※10:30以降は6階美術画廊入口にて配布。詳細はホームページを参照のこと。

 

【関連リンク】山本大貴 オフィシャルサイト 

 

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