【インタビュー】日動画廊副社長・長谷川智恵子さんに聞く〈 2 〉

2014年04月25日 14:57 カテゴリ:その他ページ

 

『LES GRANDS MAÎTRES DE L'ART MODERNE ET CHIEKO HASEGAWA』(モダンアートの巨匠たちと長谷川智恵子)の表紙

『LES GRANDS MAÎTRES DE L’ART MODERNE ET CHIEKO HASEGAWA』(モダンアートの巨匠たちと長谷川智恵子)の表紙

長谷川 企画の始まりは当時「美術散歩」というテレビ番組のお手伝いをしたことからです。初めは国内で梅原龍三郎や菱田春草の先生方の足跡を辿るというかたちでやっていたのですが、その中でダリやミロをやろうじゃないかと、海外まで撮りに行くことになったのです。さらに一過性の放映だけではもったいないと周囲の人に言われて、『アートトップ』で受けて下さり毎号いろいろな作家にインタビューをしにフランスなどへ行きました。その時代は、日本の絵画ブームもありましたから、頻繁にフランスへ行き土日の時間のあるときに作家を訪れることができました。画商さんから紹介してもらったり、画家から次の画家を紹介していただいたりもしました。

 

私は人生というものは、いいチャンスが来たときに前向きに受け止めてみる。フランス語もそう上手でないのに、度胸だけはあったなとつくづく思います。ダリのときでも、ダリがあまりしゃべるので途中はチンプンカンプンで、日本に戻りましてから高階秀爾先生のところへ伺って、一緒にテープを聞いていただいたのですが、「これはダリの造語だよ」というものも入っていました。巨匠のインタビューで学んだことは、巨匠たちは人間的なやさしさというもの――度量の深さみたいなものを持っているのだなあということを思いました。そういう思いがあるからたくさんの人を魅了する作品が生まれるのでしょうね。

 

笠間日動美術館で開催中の日仏文化協力90周年記念「画家と画商の物語 印象派からエコール・ド・パリまで」展の見どころはなんですか。

 

長谷川 日動画廊はこの87年間、画家と知り合い画家の作品を扱わせていただき、今日に至っております。その意味では、太陽展のように非常に幅の広い画家とのお付き合い、昭和会展のように新人の発掘というふうに、画家とは切っても切れないご縁にある画廊だと思います。商品価値のある絵だけを扱う画商もたくさんある中で、「画家と共に」が先代からのポリシーだったので、フランスの画商のあり方というものに焦点を当てたいと思い企画しました。

 

アンリ・ルソー「ポワン=デュ=ジュールの眺め、夕暮れ」1886年 85.0×115.0cm 個人蔵

アンリ・ルソー「ポワン=デュ=ジュールの眺め、夕暮れ」1886年 85.0×115.0cm 個人蔵

画家と画商の結びつきからコレクターに絵をお嫁入りさせる――そういう役割を画商はしてきたと思うのです。先ほどのエルミタージュ美術館、プーシキン美術館にある西欧絵画のいい作品は、ほとんどがヴォラールやカーンワイラーから買っているんですね。あの頃、シチューキンとモロゾフという豪商がパリに行って買っていて、1917年のロシア革命でソビエトになってからは国の財産になったわけです。

 

出品作品としては、このルソーの大作は日本には少ないと思います。モネも非常に美しい作品です。それからミレーのほのぼのとしたやさしさ。私はミレーの油彩画よりパステルが好きなんです。油彩画より明るく、繊細なものが浮かび上がっています。またルノワールもいいですし、フジタの特集展示もやっております。このあたりが特に見ていただきたいところですね。

 

これからの画家と画商に期待することは。

 

長谷川 日本の若手作家やベテラン作家をどう国際的にするかということが、これからの一つの課題でしょうね。今、コンテンポラリーアートの世界はずい分国際的になってきていますけれど、私どもの取り扱う具象絵画の世界は国内マーケットが強かっただけに、国内で満足していた部分が強いと思うのです。いいものは美術館や個人コレクターに入っていますし、日本近代洋画の物故作家たちは売買できる作品が少なくなっています。

 

特に若い画家たちは、海外を視野に入れた動きをしたいと思うのでしょうし、それを画家と画商の中でやっていかないといけないと思っています。このところ、アートフェアなどに積極的に出ていく姿勢もとり出しておりますし、また昭和会展の作家たちにパリの私どものアトリエで絵を描いてもらって、それをパリの日動画廊で発表してもらう。アートフェアは一過性ですが、画廊での展覧会はフランスでは1カ月間やりますから、いろんな人に見てもらうチャンスになりますし、成長の段階から国際的に広げることが大切だと思っています。

 

平面絵画はルネサンスから500年余も生きているのですから、廃れることはないと私は確信していますし、今後もその世界の中でやっていきたいと思っています。描く世界や主題はいろいろ変わっていくと思いますが、もっと若い力で日本が国際的になってほしいと期待しています。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました。

(2014年4月16日、銀座・日動画廊本店にて)

 

 

笠間日動美術館企画展示館外観。来年4月からは常磐線が東京駅へと乗入れアクセスが便利になる

笠間日動美術館企画展示館外観。来年4月からは常磐線が東京駅へと乗入れアクセスが便利になる

「画家と画商の物語 印象派からエコール・ド・パリまで」展

 

【会期】 2014年3月15日(土)~6月15日(日)

【会場】 笠間日動美術館企画展示館(茨城県笠間市笠間978-4)☎0296-72-2160

【休館】 月曜、ただし5月5日開館

【開館時間】 9:30~17:00(入館は閉館30分前まで)

【料金】 大人1000円 大高校生700円  中小生300円

【関連リンク】 笠間日動美術館 日動画廊

 

 

※同展は以下のテレビ番組での紹介が予定されています

■ 「出没!アド街ック天国」2014年5月3日(土) 21:00~21:54

■ 「とちぎ発!旅好き!」

栃木放送 5月1日(木)19:30~20:00、東京MXテレビ5月4日(土)9:30~10:00、テレ玉 5月10日(土)13:00~13:30、群馬テレビ 5月17日(土)8:30~9:00、サンテレビ兵庫 5月9日(水)18:30~19:00、チバテレビ 5月12日(土)13:00~13:30

 

【関連記事】

笠間日動美術館開館40周年インタビュー 長谷川徳七館長・智恵子副館長に聞く 

第49回昭和会展 受賞者決まる

 

「新美術新聞」2014年5月1・11日号(第1343号)1・2面より

 


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