[寄稿]生誕125年 中川一政展‐ひねもす走りおおせたる者‐:徳井静華

2018年09月14日 10:00 カテゴリ:最新のニュース

 

左:《向日葵》1982年 個人蔵  右:《薔薇》1988年 個人蔵

左:《向日葵》1982年 個人蔵  右:《薔薇》1988年 個人蔵

 

中川一政(1893-1991、文化勲章受章)生誕125年の節目に、絵画でその画業を辿ると共に、書と陶芸に注目する展覧会が開催。生きた証といえる作品・資料から画家の生き様を知ることができるだろう。

 

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明治26年東京に生まれた中川一政は、大正期に独学で画家を志し、昭和そして平成と97年の生涯を生き抜いた。絵画を主軸としながらも挿画や書、陶芸、また文芸にと幅広い活動を展開した。「駒ヶ岳」や「薔薇」に代表される躍動感豊かな画は、今なお我々を魅了すると同時に、融通無碍とも言える書や陶芸には新たなファンが生まれている。

 

生誕125年を記念して開催する本展では、絵画でその画業を辿ると共に、晩年から精力的に取り組んだ書と陶芸にスポットを当て、その創作姿勢ひいては生き様に迫りたい。

 

一般的に、画家が書を書けば、画描きの余技だと言われ、陶芸も然り。一政はこうした世の批評に、自分の書を画描きの余技と言うなら、画も余技と言われても構わないと断言している。また、自分を生かす道が他にあるなら、画に捉われることはないとも書き記している。70歳代後半に陶印作りに端を発した陶芸は、茶碗や花入れ等に拡がり、90歳を過ぎる頃には自作の道具で茶事を催している。彼の書や陶芸また他の制作も別々のもの、まして余技などではなくすべてが全力の仕事である。それらは言わば、長きにわたる陶冶によって培われた「中川一政」という大樹から伸びる枝の一本一本なのである。

 

さて、本展副題は一政が好んだ言葉「終日(ルビ:ひねもす)走りおおせたる者、夜の安きにつくこそよけれ」(古代ローマの哲学者セネカ)から引用した。一政は「私は、よく生きた者が、よく死ぬことが出来るのだと思っている。/それはよく働くものが、よく眠ると同じ事で、そこになんの理屈も神秘もない。」と記し、アトリエの壁に掛けたこの言葉を日々そして一生の励みにしたと言う(『腹の虫』1975年 日本経済新聞社)。また、一政の陶印に「夜眠日走」がある。時に応じて本分を尽くすと解される言葉だが、先のセネカの言葉を四字に収斂したものとも考えられる。何れにしても、幅広い芸術活動に日々持てる力の全てを注ぎ、自己革新を目指して生涯を走り抜いた一政の生き様と重なる言葉である。本展において、中川一政の生きた証に触れていただきたい。

(白山市立松任中川一政記念美術館学芸員)

 

《彫唐津茶碗 銘 富樫》1976年 真鶴町立中川一政美術館蔵

《彫唐津茶碗 銘 富樫》1976年 真鶴町立中川一政美術館蔵

 

《日ねもす》個人蔵

《日ねもす》個人蔵

 

《われはでくなり》1985年 白山市立松任中川一政記念美術館蔵

《われはでくなり》1985年 白山市立松任中川一政記念美術館蔵

 

【展覧会】生誕125年 中川一政展‐ひねもす走りおおせたる者‐

【会期】2018年9月8日(土)~11月25日(日)

【会場】白山市立松任中川一政記念美術館(石川県白山市旭町61-1)

【TEL】076₋275₋7532

【休館】月曜(祝休日のとき翌平日)

【開館】9:00~17:00(いずれも入館は閉館の30分前まで)

【料金】一般300円 高校生200円 中学生以下無料

 

【関連リンク】白山市立松任中川一政記念美術館

 

 


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