あるアトリエ物語:寺坂公雄 ―映画『あるアトリエの100年』について

2017年04月06日 16:14 カテゴリ:最新のニュース

 

 

『あるアトリエの100年』という岡田三郎助、八千代夫人と周近の方々のドキュメンタリー映画が製作された。

 

現存する最も古いと思われる洋画家のアトリエは、明治41(1908)年に建てられた。場所は渋谷区伊達町96(伊予宇和島伊達藩跡)である。現在は恵比寿3丁目35に「岡田三郎助終えんの地」という指標が立っている。岡田三郎助・辻永・辻朗と引き継がれて109年が過ぎた。今は辻と表札があり、草木が繁茂している。岡田先生の郷里であり、作品を収集している佐賀県立美術館にこのアトリエが移築されることになり安堵している。

 

日本洋画壇の草創期、岡田三郎助は繊細で情感豊かな美人画で一世を風靡した (筆者撮影)

岡田先生は昭和14(1939)年に亡くなられた。近所の辻邸が戦火で焼かれ、辻永先生は八千代夫人に懇願されて一緒に住むことになる。そして日本美術の中心である文展、帝展、日展の中核となり、多くの作家を輩出する。

 

映画はこのアトリエで発見された膨大な数の16ミリフィルムが中心で展開する。新しいものに興味を持つ三郎助自身が昭和5年頃から撮影記録したものである。八千代夫人は別居していたが、一緒にパリに行き従兄弟の藤田嗣治と映っている。

 

特筆すべきは婦人解放への理解があり、女性の学ぶ場所がない中、アトリエに隣接して「女子洋画研究所」と称した部屋を作り、ここでわが国最初の女流洋画作家たちが生まれた。三岸節子、森田元子、有馬さとえ、深沢紅子、いわさきちひろ等であり、家族が登場して思い出を語る。

 

官展の中心にいた黒田清輝のもと、東京美術学校で共に助教授として支えた藤島武二と岡田2人は、第1回の文化勲章を受章している。中沢弘光、杉浦非水、ガラス工芸の岩田藤七、書生であった前衛作家・古沢岩美も登場する。小説家・劇作家の夫人、同じく兄の小山内薫等、この時代の人々が西洋文化に憧れ、吸収していく様がよく分かる。

 

この映画は岡田三郎助アトリエ物語であり、その後の80年のことを記する必要がある。震災と戦火から残ったアトリエを譲られ、辻永先生は日展理事長、日本藝術院第1部長として活躍されており、昭和29年の初入選に際して私もお訪ねした。いつも和服姿で寡黙で無駄のない記憶の正確な方だった。

 

この映画は三男瑆(ひかる)(ドイツ文学者、東京大学名誉教授)、澄子夫人の企画・ご支援でイメージブレーンにより文化庁の補助金を受けて制作された。昨年度文化映画第2位である。

 

(てらさか・ただお/洋画家、日本藝術院会員、光風会理事長)

 

予告編

 

映画『あるアトリエの100年』上映スケジュール
2017年3月4日(土)~10日(金) 東京都写真美術館 ※上映終了
2017年3月25日(土)~4月7日(金) シネマスコーレ(名古屋)
2017年4月1日(土)~14日(金) 淀川文化創造館 シアターセブン(大阪)
2017年4月15日(土)~28日(金) シエマ(佐賀)
2017年5月1日(月) 国立新美術館 3F講堂 ※13時~(1回限定)

 

【関連リンク】映画『あるアトリエの100年』公式サイト

 

 


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