「マルセル・ブロイヤーの家具: Improvement for good」:北村仁美

2017年02月28日 17:25 カテゴリ:最新のニュース

 

 

マルセル・ブロイヤー(1902~81)の《クラブチェア B3》は、ファッション界の用語を借りれば「イット・バッグ」ならぬ「イット・チェア」といえるのかもしれない。現在も世界中で愛されている名作椅子だ。しかし、このモダン・チェアにも多くの紆余曲折があった。

 

最初の受難。当時バウハウスの家具工房の教師であったブロイヤーは、パウル・クレーの絵画作品を引き合いに出し、デザインしたばかりのこの椅子を自分の「作品」と主張した。そして自ら生産販売会社を1926~27年の間にベルリンで立ち上げてしまう。結果、この椅子は、バウハウス・デザインを代表するものであったにもかかわらず、バウハウス製品として登録されなかった。

 

会社を設立したものの経営は厳しく、ブロイヤーはデザインの権利をトーネット社へ早々に売り渡さねばならなかった。その後も受難は続く。トーネット社では、製造工程や構造補強のためデザインに変更を加えた。例えば、ブロイヤーの初期のパイプの直径は約20ミリ。それに対し1930年代のトーネット社製「ブロイヤーデザイン」のパイプは、約25ミリ。その他の変更も加わり全体の印象は変わってしまった。厳密にブロイヤーのデザインといえるのは、1920年代後半のわずかな時期の《B3》のみ。まさに幻の《B3》である。

 

《B3》は戦後に再生産が始まり、現在もノル社が生産する。再生産時に座面等の布は革に置き換えられ、パイプの切れ目位置も変更された。総重量は初期《B3》より6キロ重い。

 

本展では、日本の美術館所蔵の初期《B3》のバージョンが4点出品される。このうち一番古いものは、宇都宮美術館所蔵品で、熔接でパイプがつながれている。その後、量産や座り心地のよさを考えて、パイプはボルト留めへ変更されていく。会場で初期《B3》の変遷を、またそれを通してデザインにおけるブロイヤーの息づかいを感じていただければ幸いである。

 

(きたむら・ひとみ/東京国立近代美術館工芸課 主任研究員)

 

 

【会期】2017年3月3日(金)~5月7日(日)

【会場】東京国立近代美術館 2Fギャラリー4(東京都千代田区北の丸公園3-1)

【TEL】03-5777-8600(ハローダイヤル)

【休館】月曜、3月21日(火) ※3月20日、27日、4月3日、5月1日開館

【開館】10:00~17:00、金曜・土曜は10:00~20:00(入館は閉館30分前まで)

【料金】一般430円 大学生130円 高校生以下および18歳未満、65歳以上無料

【巡回】2017年7月15日(土)~9月24日(日)まなびあテラス 東根市美術館

 

■無料観覧日

3月5日(日)、4月2日(日)、5月7日(日) ※本展および所蔵作品展「MOMATコレクション」(4-2F)のみ

 

■ギャラリートーク ※申込不要・参加無料(要観覧券)

2017年4月15日(土)15:00~:芦原太郎氏(建築家)
2017年4月22日(土)15:00~:同館研究員

 

【関連リンク】東京国立近代美術館

 


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