[寄稿]上村松園展 理想の女性像を求めて:永井明生

2016年09月17日 14:37 カテゴリ:最新のニュース

 

《鼓の音》昭和15(1940)年 松伯美術館蔵

《鼓の音》昭和15(1940)年 松伯美術館蔵

 

 

珠玉の名品による回顧展

 

上村松園は、生涯を通じ女性の姿を一筋に描き続けて独自の画境へと到達した、我が国の近代を代表する画家の一人である。男性中心の画壇にあって、松園の描き出した人物は、同性の視点でしか迫ることができないような細やかな感情の機微を描き出している。さらに、洗練を極めた線描や色彩の表現は、他の女性画家たちが到達し得なかった境地でもある。その清澄な絵画世界は、今日もなお瑞々しい魅力を放ち、多くの人々に深い感銘を与えている。

 

明治8(1875)年、京都・四条に生まれた松園は、鈴木松年、幸野楳嶺、竹内栖鳳に師事して天賦の才に磨きをかけ、早くから数々の展覧会で受賞を重ねる。鏑木清方らとともに美人画の世界を牽引し、昭和16(1941)年に帝国芸術院会員、昭和23(1948)年には女性として最初の文化勲章を受章した。

 

《夕暮》昭和16(1941)年 京都府立鴨沂高等学校蔵 前期(9月15日~10月11日)のみ

《夕暮》昭和16(1941)年 京都府立鴨沂高等学校蔵 前期(9月15日~10月11日)のみ

《舞仕度》 大正3 (1914)年 京都国立近代美術館蔵 前期(9月15日~10月11日)のみ

《舞仕度》 大正3 (1914)年 京都国立近代美術館蔵 前期(9月15日~10月11日)のみ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さまざまな意匠をこらした美しい着物に身を包み、日本髷を結った女性たちの多くは、江戸中期から後期にかけての、あるいはその名残りをとどめる明治期の女性風俗を示す。失われつつある古き良き京の町の情趣とそこに暮らす女性の美しさが見事に描出されているのである。表情や仕草だけでなく、衣装や装身具、髪型なども、描かれた人物の年齢や性格、内なる感情などを表す重要なファクターとして見逃せない。また、浮世絵や能・謡曲、日本の古典文学や中国の故事などに材をとった一連の作品も、松園芸術に一層の幅と深みをあたえている。

 

松園の生きた時代、とりわけ明治から大正にかけては、女性が画家として自立するにあたり数多くの苦難や逆境が前途に立ちはだかった。しかし松園は、苦悩や孤独を画面に表出させることなく、ひたすら自らの抱く理想の女性像を追い求めた。創作を通じて自身の精神をも高みへと導きながら、あくまでも凛とした気品に満ちた女性像を描き続けたのである。

 

 

《花がたみ》大正4 (1915)年 松伯美術館蔵

《花がたみ》大正4 (1915)年 松伯美術館蔵

《人生の花》明治32 (1899)年 京都市美術館蔵   後期(10月13日~11月3日)のみ

《人生の花》明治32 (1899)年 京都市美術館蔵   後期(10月13日~11月3日)のみ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本展覧会では、複数の代表的な作品を交えながら、松園の画業を「明治期の諸作」「方向性の模索」「松園芸術の精華」という三つの章に分けて紹介している。母の理解に支えられて本格的に絵の世界に入り、若くして画壇で高い評価を得たのち、スランプを乗り越えながら画家として大きく飛躍していくその軌跡を、原則として編年順に辿る展示構成となっている。初期の代表作として知られる明治32(1899)年の《人生の花》(後期のみ展示)、《舞仕度》(前期のみ展示)《花がたみ》《月蝕の宵》(後期のみ展示)といった大正期の文展出品作、母への追慕を「香り高い珠玉のような絵」に結実させた昭和16(1941)年の《夕暮》(前期のみ展示)など、各時期の代表作を含む55点と、下絵・素描25点の計80点を紹介する(会期中一部展示替えあり)。

 

初期の太くのびやかな濃墨の線、円熟期を迎えての典雅で簡潔な薄墨の線など、線描の卓越した美しさは松園芸術の大きな魅力である。また、鮮やかになりすぎない岩絵具の抑えた色調とその絶妙な配色、朱や黒などによる効果的なアクセントなど、色彩表現の巧みさも、作品の品格を一段と高めている。松園の研ぎ澄まされた感性と筆技が生み出した名品の数々を、心ゆくまでお楽しみいただきたい。

(奥田元宋・小由女美術館学芸員)

 

【展覧会】上村松園展 理想の女性像を求めて

【会期】2016年9月15日(木)~11月3日(木・祝)

【会場】奥田元宋・小由女美術館(広島県三次市東酒屋町453―6)

【TEL】0824―65―0010

【休館】10月12日(水)

【開館】9:30~17:00(9月15日・17日、10月16日は21:00まで、入館は閉館30分前まで)

【料金】一般1000円 ペアチケット1800円 高校・大学生500円

【関連リンク】奥田元宋・小由女美術館

 

 


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