インタビュー:妃香利―柔らかな光に包まれた公園の四季を世界に

2016年09月10日 13:43 カテゴリ:最新のニュース

 

 

池袋東武で9月22日より新作個展を開催する画家・妃香利の経歴は、同世代の作家たちと比べて異色と言えるだろう。東京の大都市・新宿で生まれ育ち、油絵を本格的に学び始めたのは大学卒業後。13年まではIT企業に務めながら制作活動を続けていた。多くの若手画家とは異なる道を歩んできた彼女だが、「遠回りしたからこそ、今がある」と最近は考えているという。

 

幼いころから絵を描くのが好きだったものの「絵描きを目指そうとは思っていなかった」。美大進学も考えたが、2001年に東京工芸大学芸術学部に入学。クリエイターやメディアアーティストの育成を目指す同大学で、写真をはじめ映像やウェブデザインなど先端的な表現や技術を幅広く学んだ。しかし「卒業するまで、自分が本当にやりたいことは見つかりませんでした。それで好きだった絵をもう一度やってみようと、絵画教室に通い始めました」。

 

働きながら絵画教室に通う日々が5年続いた。油絵は性に合っていたようで、デッサンから始めて着実に力を伸ばしていった。しかし、どんなに学んでも「自分の表現というものができない」という歯がゆさが残る。絵画教室の講師にも「技術は教えられるが、表現は教えることができない」と言われ、その時に與倉豪氏が主催するアートマネジメント講座(GUAMS)を知ったという。「絵づくりの仕方からギャラリーやメディアの方々とのやりとり、展覧会の手順や必要事務についてまで、講座で教えられる内容はどれも実践的なもので、すんなりと受け入れることが出来ました。その頃からプロの画家になるという意識が芽生え始めたのだと思います」。12年より若手女性画家のアートユニット「イレブンガールズアートコレクション(EGC)」に参加して各地の百貨店での発表を行い、そして13年、ついに会社を退職し画家として本格的に活動を始める。

 

 

EGCに所属する女性画家たちは、およそ3年間を通じて各地の百貨店でグループ展を行い、百貨店での個展を目指す。様々な背景を持ち、それぞれ異なる表現を行う彼女たちは仲間であるとともに、ライバルでもある。「私は所属作家のなかでも年齢が上の方でしたので、危機感がありました」。仕事を辞めて絵に専念したのも、ひとつの賭けであったのだろう。その賭けに勝ち、彼女は今ここにいる。「美大ではなくグラフィック系の大学で学んだことも、社会人としての経験も、全てが今につながっている気がします。遠回りのようにも思えますが、その道を通ったからこそ今の自分がいるのだと思っています」。

 

◆「東京の光彩豊かな憩いの場を、世界中の方々に紹介したい」―

 

15年の池袋東武での個展より、都内の公園を舞台に四季の移り変わりを描いた「東京遊覧 四季だより」に取り組んできた。1年を通じて12点の連作を描き、これを原画としたカレンダーを制作。2020年に向けて数多く訪れる海外からの観光客にも「東京の憩いの場」を紹介したいと話す。「都会のイメージがある東京ですが、実はとても公園が多いんです。海外の方にも東京のそうした一面を知って欲しい」。今回は「東京遊覧 四季だより」第2弾となる12点の連作を中心とした個展となる。パステルを思わせる柔らかな色彩で描かれた、光溢れる公園の情景は、どこか懐かしく観る者の心に染みる。

 

この1年間は「制作過程からモチーフまで、一から見直し、新たな試みも取り入れてきた」という。花々に囲まれた母と子、ボートに乗る恋人たち、橋の上で物思いに耽る少女……。正方形の舞台上には、これまで以上に様々な人々が登場し、それぞれの物語を奏でている。「公園というところは、人々が出会い、楽しむ憩いの場でありながら、最後には彼らは帰るべき場所へと去っていくという寂しさもあります。そうした公園の情景を通じて、人の心の中にある喜びや悲しみ、慈しみの心、人生観といった形の無い物を描きたいと考えています」。東京という地で生まれ育った自分だから描ける、自分だけの表現。彼女はそれを掴みつつあるのだろう。

(取材・文:和田圭介/協力:EGCオフィス)

 

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妃香利 (Hikari)

 

1983年東京都新宿区出身・在住。2005年東京工芸大学芸術学部MA表現学科マルチメディア専攻卒業。大学卒業後はIT企業に7年間勤務しながら絵画を学び、2010年より作品発表を始める。EGCには12年より加入(~13年度)し、松屋銀座や福屋八丁堀店、阪神梅田本店など各地の百貨店でのグループ展に出品。15年、池袋東武での個展で「東京遊覧 四季だより」を発表、今回はその第2弾となる。

 

 

【展覧会】第2回 妃香利 油彩画展 東京遊覧 四季だよりⅡ~カレンダー原画展~

【会期】2016年9月22日(木・祝)~28日(水)

【会場】池袋東武 6F1番地 美術画廊 絵画サロン(東京都豊島区西池袋1-1-25)

【TEL】03-5951-5742

【営業時間】10:00~20:00 ※最終日は16:30閉場

 

【関連リンク】妃香利 オフィシャルサイト ELEVEN Girls Art Collection(EGC) 

 

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