[寄稿]東京ステーションギャラリー「交流するやきもの 九谷焼の系譜と展開」:冨田章(東京ステーションギャラリー館長)

2015年08月04日 10:35 カテゴリ:最新のニュース

 

ポップで現代的な九谷焼

 

やきものというと、地味で古くさいイメージがあるかもしれない。ところが九谷焼は、カラフルで華やかで、むしろポップで現代的な感覚にも通じるやきものなのである。

 

たとえば、《古九谷 青手団扇散文平鉢》のシャープなデザイン感覚はどうだろう。三つの団扇を、中心をずらして配置した絶妙のバランスが心地よいリズム感を醸し出している。あるいは《吉田屋窯 百合図大鉢》の思い切りの良さである。鉢の中央に一輪の百合の花を配した構図は、大胆で力強いが、それだけでなく、色の配置と組み合わせが見事な調和を作りだしているのだ。

 

 

九谷焼には技巧的な作品も少なくない。粟生屋源右衛門の《透彫葡萄棚香炉》は、中でも必見の名品だ。一辺が10センチ程度しかない小さな香炉だが、葡萄棚を模した細工のあちこちに、リスや蝶、トンボ、かたつむりなどの小動物がちりばめられていて、見ていて飽きることがない。まるでガラス工芸のエミール・ガレを思わせるような表現だが、実はこれは江戸後期の制作で、アール・ヌーヴォーより半世紀以上も前の作品なのである。

 

明治期には彩色金襴手という、欧米への輸出用に作られた豪華絢爛で派手なスタイルが流行するが、この時期にも技巧を凝らした作品が少なくない。小田清山の《御製細字高台付酒器》は、高さ18センチほど、口径は10センチにも満たない酒器だが、その外側と内側にに明治天皇が詠まれた和歌1,687首が、肉眼では判別できないような小さな文字で書き連ねてある(ルーペを添えて展示中)。超絶技巧の極致のような作品だ。

 

近代から現代にかけて、九谷焼は多様な表現を取り入れるようになるが、九谷の伝統の色である五彩(紺青、緑、赤、黄、紫)をベースに、陶工たちの個性と創意工夫を盛り込んで、さらに豊かな世界を繰り広げていく。

 

本展は、今年開窯360年を迎える九谷焼の歴史をたどる史上初の展覧会であるが、九谷焼の魅力を最大限に伝えるため、展示にも工夫を凝らした。パステルカラーと原色を用いたケースは、伝統的なやきものの展示ではまず使われないと思われるが、そんな実験的な展示も含めて、九谷焼の魅力を堪能していただきたい。

(東京ステーションギャラリー館長)

 

 

 

 

【会期】2015年8月1日(土)~9月6日(日) 

【会場】東京ステーションギャラリー(JR東京駅 丸の内北口改札前)

【TEL】03-3212-2485

【休館】月曜

【開館】10:00~18:00(金曜は20:00まで、入館はそれぞれ閉館30分前まで)

【料金】一般900円 高校・大学生700円 中学生以下無料

【関連リンク】東京ステーションギャラリー

 

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