【レポート】2015年、シンガポールに2つの美術館が開館

2014年10月17日 16:10 カテゴリ:最新のニュース

 

ますます高まるアジアのアートハブとしての存在感 

シンガポール・ピナコテーク・ド・パリとナショナル・ギャラリー・シンガポールが開館

 

アジアのアートハブ(拠点)として近年存在感を高めつつあるシンガポール。同国が2015年に独立50周年を迎えるにあたり、2つの美術館が開館するなど現地のアートシーンが更なる盛り上がりを見せようとしている。そんな中シンガポール政府観光局は10月16日、アーツ千代田3331でメディア向けのブリーフィングを開催。アートコレクター・宮津大輔氏、ナショナル・ギャラリー・シンガポールのSybil Chiew氏、シンガポール美術館のSusie Lingham氏を迎えて現地のアート動向を紹介した。(取材/橋爪勇介)

 

来年開館のナショナル・ギャラリー・シンガポール © studioMilou Singapore 2013 / National Gallery Singapore

 

シンガポールは2000年に同国を国際文化芸術都市とする政策を打ち出し(※)、それ以来国内の芸術文化の振興に積極的に取り組んできた背景がある。近年では「シンガポール・ビエンナーレ」(06年~)、「アート・ステージ・シンガポール」(10年~)などの大規模イベントをはじめ、世界中から16のギャラリーが出店する東南アジア初の現代アート地区「ギルマン・バラックス」(12年~)、チャンギ国際空港内の自由貿易区域「フリーポート」の建設など香港と並ぶアジアのアート・ハブへと成長してきた。また同国では政府観光局と経済開発庁の連携のもと、ナショナル・アーツ・カウンシルが主導する「シンガポールアートウィーク」を開催。シンガポールのアートカレンダーで最も盛り上がりを見せるイベントとして現地居住者と海外からの訪問者の両方をターゲットにしている。(2015年には1月17日~25日の9日間で開催)

 

ゴールデン・ジュビリーである来年にはアートシーンの目玉として2つの美術館が開館。まず5月にはフランス・パリの私立美術館「ピナコテーク・ド・パリ」の分館である「シンガポール・ピナコテーク・ド・パリ」がオープン。同館はフランスの「ピナコテーク・ド・パリ」同様、異なる作風や、時代、分野を問わない様々なアート作品を展示する。美術館は「禁断の丘」や「ガバメント・ヒル」と呼ばれたフォート・カニング・ヒルにある1970年代までイギリス軍に使用された歴史的建造物「フォート・カニング・センター」を改装して開館する。

 

シンガポール・ピナコテーク・ド・パリ ©SARL Guinamard-Casati Architect

 

また同年10月に開館する「ナショナル・ギャラリー・シンガポール」については同館メディア&コミュニケーション アシスタント・ディレクターのSybil Chiew氏が概要を紹介。同館は以前のシティホールと最高裁判所を改装して開館。総床面積64000平米の館内には東南アジアのアートを中心に世界各国の近現代アートを展示し、世界最大級のパブリックコレクションを有する美術館となる。Chiew氏は「シンガポールの国民だけでなく、近隣国の人々にインスピレーションを与え、またどんどん参加してもらいたいという気持ちがある。ビジュアルアートのリーダー的な組織となり、東南アジアを含む世界中の人たちに訪れてもらいたい」と意欲を見せた。

 

ナショナル・ギャラリー・シンガポールは常設展示であるSoutheast Asia Gallery(以下SAG)とSingapore Gallery(以下SG)、そして特別展示室で構成。SAGとSGにはそれぞれ350点ほどの作品が常設展示される。SAGは世界で初めて東南アジアのアーティストに特化し、19世紀から現在までの発展の歴史などを展示。またSGではシンガポール初となる、同国の歴史的に重要なアーティストの長期展示を行う。なお同館は海外の美術館ともパートナーシップを締結、福岡アジア美術館、東京国立近代美術館のほかポンピドゥー・センター(フランス)、オルセー美術館(フランス)、Tropenmuseum(オランダ)、Bảo tàng Mỹ thuật Việt Nam(ベトナム)の6館がオフィシャルパートナーとして名を連ねている。

 

ナショナル・ギャラリー・シンガポール オープンハウスの様子

 

© studioMilou Singapore 2013 / National Gallery Singapore

 

会見ではシンガポール美術館ディレクターのSusie Lingham氏が最後に登壇し、現在同館で開催されている主な展覧会を紹介。1996年に開館した同館は東南アジアの現代アートに関して世界最大級のコレクションを持つ美術館の1つだが、「今新たな段階に入ろうとしている。人間性あふれる、未来によりよいインスピレーションを与える存在になりたい」と今後のビジョンを提示。館のミッションを「人々の生活にアートを取り入れてもらう手伝いをすること」とした。

 

またナショナル・ギャラリー・シンガポール開館後の2館の関係性、役割については「(2館は)姉妹のような関係。シンガポール美術館はコンテンポラリーアートを、ナショナル・ギャラリー・シンガポールはモダンアートを中心に打ち出していく」と説明。国が一丸となって、アートシーンを盛り上げていく姿勢を垣間見せた。

※シンガポールでは政府内で国家遺産局(National Heritage Board)、国家芸術委員会(National Arts Council)、シンガポール経済開発庁(EDB)、シンガポール政府観光局で役割が分かれている。

国家遺産局=遺産のプロモーション、オーディエンスのプロモーションを担い、アートの知識や理解をシンガポールのコミュニティに拡げる。博物館、ビエンナーレ、ナショナル・ギャラリー・シンガポールを管轄。

国家芸術委員会=アーティスト開発、オーディエンス開発を担い、アートの知識や理解をシンガポールのコミュニティに拡げる。またアート制作やリサーチの中心地としてシンガポールを打ち立てる。ローカルの才能の開発も担う。

シンガポール経済開発庁=投資プロモーション、業界開発を担い、海外のギャラリーや会社をシンガポールに誘致する。ギルマン・バラックスにも関与。

シンガポール政府観光局=コレクターとの関係構築、質の高いコンテンツ制作を担う。

 

 

※2015.11.1追記

ナショナル・ギャラリー・シンガポールの開館日は11月24日。開館記念展は「Siapa Nama Kamu?」。

 

【関連記事】寄稿:シンガポールにて(国立新美術館館長・青木保)

 

 


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