【インタビュー】第82回独立展 ―奥谷博氏に聞く

2014年10月14日 09:30 カテゴリ:最新のニュース

 

第82回展を迎えた独立展について、半世紀にわたって独立美術協会と歩みをともにしてきた奥谷博氏に話を聞いた。奥谷氏にとっての独立展とは、そして独立美術協会の今後に向けた取り組みについて語ってくれた。

 

 

―今展が、55回目のご出品となります。これまでの歩みを通じて、独立美術協会はどのような団体だと感じられていますか。

 

奥谷博氏(以下、奥谷) 一言で言えば、とても自由な団体です。任意団体ですので会長や理事長などピラミッド型の役職が無く、作品の前では平等で、言いたいことを言える空気があります。もちろん、先輩後輩という上下はありますが、不思議な「和」のある団体だと思いますね。

 

私の初出品は1959年の第27回展ですから、もう人生の半分以上を独立で過ごしていることになります。当時は東京藝術大学の4年生で、林武先生に学んでいました。作品が掛かっていたのは、会場だった東京都美術館の2階最奥の展示室。周りの作品と比較しても自分の力の無さが身に染みて、それから一心に絵画に取り組むようになりました。公募展に出したというのは、私にとってとても良かったと今でも思います。公募展では、同じ志を持つ友ができ、切磋琢磨しながら、ときに悩みを話し合うことも出来ます。個展を中心に活動すれば、制作はじっくりと出来る面もあるでしょうが、独りよがりになってしまうかもしれない。

 

また、毎年1点大作を制作するのは大変なことですが、それを20年、30年と続けていけば、美術館で個展を開くのに十分な作品数を描くことになります。人間は怠けやすいから、公募展に出品しないとなかなか大作を描かない。そういう意味でも良いのかなという気がします。

 

(左)奥谷博「ちゃまですよ」
(右)絹谷幸二「不動明王 阿吽」

 

―ただ、近年は若い作家が公募展に出品しなくなっており、美術団体にとっての重要な課題となっています。

 

奥谷 今は世界の美術の動きを簡単に知ることができますし、発表の場である画廊や美術賞もたくさんありますから、公募展という選択肢が選ばれにくいのかもしれません。公募展自体を知らない人も多くいるでしょう。事実、独立展も高齢化が進んでいて、どのように若い人に独立展の魅力を伝え、出品してもらうかを日頃から話し合っています。私たちの頃とは時代が全く違いますから、時代に応じた活動をしなければなりません。

 

―若い世代の作品についてはいかがですか?表現も多様化しています。

 

奥谷 私の若い頃よりも、技術的な面など確実に上手くなっています。一方で、環境が恵まれすぎていて、結果をすぐ求めるような気風も感じられます。良くも悪くも、芸術の世界というのは直ぐに結果が出る世界ではありません。無駄なことをたくさん経験するなかで、1パーセントでも実るものがあればよい。結果を急がないというのが大事なのかなと思います。

 

(左)大津英敏「少年時代・2014」
(右)林敬二「宙・凱風」

 

また、マンガやアニメ、メディアアートなど、様々な表現が生まれているのはとても素晴らしいことです。絵画でもいろいろな材料を用いた混合技法が増えています。大いに新しい表現に挑戦してほしいし、自分が納得したものであればどのような作品でも良いと思っています。しかし、自らを見つめて地に足の着いた仕事をしていかないと、その時は良いけれども、ぱっと終わってしまう。そうした挫折を私も経験してきました。一時の仕事ではなく、一生の仕事と考えて、しっかりと作品に向き合ってほしいと考えています。

 

 

―第82回展の会期中には、パネルトークやギャラリートーク、コンサートなど様々なイベントが予定されていますが、ベテランの会員に加えて若手会員が参加しているのが注目されます。

 

奥谷 独立展の良さというものを多くの人に知ってもらうために、又、近年になって始めた試みです。今後を支えていくのは若い作家たちですから、彼らが育っていかないと会が駄目になってしまう。

 

そもそも、1930年11月、独立美術協会を創立した14名の作家たちは、平均年齢35歳という若い作家たちでした。若くして新たな美術団体を立ち上げた創立会員の強靭な意志と覚悟に襟を正すとともに、その精神を伝えていく重要性を感じています。もちろん、会自体に魅力を感じなければ、出品もしてもらえません。私たちも良い仕事をする必要があります。

 

(左)福島瑞穂「CHAOS」
(右)吉武研司「八百万の神々 ―元始女性は海であった―」

 

―魅力のある美術団体とはどのようなものでしょうか。

 

奥谷 やはり「魅力を感ずる作家がいる」ということだと思います。私が独立展に出品したのも、師事した林武先生をはじめ、海老原喜之助や鳥海青児先生、児島善三郎先生、高畠達四郎先生など優れた作家がいたからです。

 

私のことを言うのはなんですが、私は油絵具と二次元表現というものに人生を賭け、これまでほとんど絵の仕事のみで生活してきました。そうした絵描きとしての経験を伝えることが出来るし、長年絵を描いているうちに、普通の人には分かりづらい絵に込められた思いというものを感じ取ることが出来るようになりました。若手の良いところを引き出し、伸ばしてあげる。そのような環境を作っていくことも自分の役割だと思っています。頭ごなしに「育てる」のではなく「一緒に学んでいく」というつもりで取り組んでいきます。

 

 

第82回独立展

【会期】10月15日(水)~27日(月)

【会場】国立新美術館(東京都港区六本木7-22-2) TEL 03-5777-8600

【休館】10月21日(火)

【料金】一般700円 大学生以下無料

【関連リンク】独立美術協会

 

「新美術新聞」2014年10月11日号(第1357号)1・2面より

 


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