[エッセイ] 日々好日 : 手塚雄二 (日本画家)

2013年01月29日 17:49 カテゴリ:エッセイ

 

新たなものを求めて

 

手塚雄二(日本画家) 

 

大学に入学してから37年間無我夢中で楽しく絵を描いてきた。好きなことをやっているから苦しいこと、そのための努力は辛くはない。ずっと楽しいことが続いてきたかといえば、人生の節目には何度も落ち込んだ。けれども傷が癒える間も、止めたいという思いにはならなかった。

 

30歳を過ぎた頃、人物を主体としたモチーフに行き詰まりを感じ、一から写生をし直そうと風景のスケッチを始めた。現実から逃れたいと夢中で水辺や道を描いているとその先には必ず希望があった。何気ない林や野原の風景が違って見えることが絵描きであり、順調のなかから何かを見つけることは出来ないと感じた。

 

10数年、千葉県市原大作付近のなだらかな坂道を取材した。この道の向こうはどのような世界が広がっているのかと思い描いていた。スケッチを終え頂きに立つと、その先は行き止まりで産業廃棄物の集積場のようだった。目標があって目標に向かうのではなく、坂道のその先は分からない、発展途上でありたいと思った瞬間であった。

 

人様のお陰で今日がある。そしてもう少し良い絵を描きたい。新しいものは天から降ってくる訳ではなく、努力の賜である。だからこそもう一度、基礎からやり直し、自分にないものに挑戦し、モチベーションという筋力を身に付けたいと還暦を迎えて考えている。

(日本美術院同人・理事、東京藝術大学美術学部絵画科日本画教授)

 

「新美術新聞」2013年2月1日号(第1302号)2面より

 

 

【最新の展覧会】 「散華 手塚雄二」 2013年1月31日~ 2月13日 銀座・ナカジマアート 

                


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