[画材考] 陶芸作家:出和絵理「美しく険しい道」

2018年05月21日 10:00 カテゴリ:コラム

 

 

季節が冬になると、作品制作が一層はかどる。積雪を避け、屋内に籠りがちになるからだ。そして何より、雪が降り積もっていく様子を窓から眺めながら制作することが好きだからである。

 

今年2月、私の住む北陸地方は大雪に見舞われた。私は山側の道路を運転中に突如として立ち往生した。まわりは森、情報もなく、最初は危機感を覚えた。しかし目の前でゆっくりと時を刻むように深々と降る雪が、ただ静かに樹々や車を覆っていくさまに、たちまち心奪われた。美しい。辺りは白の世界である。

 

ひんやりとした車内で私は、舞い降りる雪を眺めながら次の展示プランや作品について思いを巡らせていた。いつも窓から見る映像も今日はパノラマである。一面、灰色の空と白い森。幻想世界に一人、佇んでいるようであった。

 

それから4時間が経ったのち、車が進み、私は夢から覚めた。暖房を強にし、飲み物を飲み、アクセルを踏む。安堵とともに、白の世界は過ぎ去っていった。

 

危機感と恍惚、制約と美。物質の危うさや制約から生まれる、儚さや美しさを求め制作している。その存在感を獲得するため、双方のバランスぎりぎりの状態を探り工夫し維持する。そして他者が少しの時間、そのものに対面する場を構築し設ける。

 

しかしながら今年の冬は、制作がはかどらなかった。豪雪が生活を脅かしたからである。退けても捨てても積もる雪、時に転び時に嵌まる。美しく険しい道をかきわけ、進む。

 

神奈川県民ホールギャラリー「5Rooms - 感覚を開く5つの個展」展示風景 ©Takeru KORODA

神奈川県民ホールギャラリー「5Rooms - 感覚を開く5つの個展」展示風景 ©Takeru KORODA

 

神奈川県民ホールギャラリー「5Rooms - 感覚を開く5つの個展」展示風景 ©Takeru KORODA

神奈川県民ホールギャラリー「5Rooms - 感覚を開く5つの個展」展示風景 ©Takeru KORODA

 

神奈川県民ホールギャラリー「5Rooms - 感覚を開く5つの個展」展示風景 ©Takeru KORODA

神奈川県民ホールギャラリー「5Rooms - 感覚を開く5つの個展」展示風景 ©Takeru KORODA

 

出和 絵理 (でわ・えり)

 

1983年石川県生まれ、金沢市在住。金沢美術工芸大学大学院博士課程修了。真っ白な磁器を紙のように薄くのばした繊細な作品からは、一面の雪景色にも似た澄んだ緊張感が感じられる。2016年には神奈川県民ホールギャラリーの「5Rooms - 感覚を開く5つの個展」に参加。今年は「美の波動2018 富山石川現代作家展」(4月27日~5月27日、富山・アートハウスおやべ)、「第13回パラミタ陶芸大賞展」(6月7日~7月29日、三重・パラミタミュージアム)への出品が決定している。

 

 

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