[通信アジア] 安藤忠雄展そしてアジア:青木 保

2017年10月29日 10:00 カテゴリ:コラム

 

 

先般、上海から来客あり、総勢8名ほどの御一行で何事かと思うと、それが上海に今度新しい美術館をつくるので、聞きたいことがあるとのこと。浦東地区の真ん中にフランスの建築家、ジャン・ヌーヴル設計の斬新な美術館で、今年着工して2020年に完工、21年の開館とのことである。

 

ヌーヴルといえばアブダビのルーブル別館のイメージが強いが、フランス建築界の大御所である。運営や経営、観客動員やプログラムや展覧会の組み方など国立新美術館の実績について質問があった。この新しい美術館のプロジェクトは国営の企業が行っているそうだが、面白かったのは経営的に利益が出来たときに新美術館の場合はどうなるのか、と熱心に質問されたことである。

 

当館は近年かなりの黒字になっているが国立ではあるので黒字部分は館の費用として自由に使ったり基金的に利用したりは出来ない。基本的には国へ納めることになる。もっとも、ある程度は還付金としてインフラ整備などに使用できるのであるが、もっと自由に美術館活動のために使えれば、というのが私たちの気持ちであり願いである。上海の人たちは頷きながら私たちの説明を聞いていた。国営になった時の利点とマイナス面とを考えているようだった。国立の良い面また恩恵も多々あるが、日本よりもはるかに強い政府の方針下にある中国もこれから文化施設の運営に関して変わってゆくのかどうか、真剣な模索の中にあるのであろう。

 

韓国の国立現代美術館とは2015年に共同制作の両国のアーティストによる展覧会を東京とソウルで行い好評であったが、中国とはどうなるのか。東南アジアの現代アートに関しては「サンシャワー展」が開催中(※すでに終了)であるが、中国ともいずれ共同プロジェクトを組みたいと思っている。上海だけではなく北京にもほかの都市にも中国にはこれから多くの新しい美術館が建設される。

 

 

上海といえば上海保利大劇院は安藤忠雄設計のオペラハウスである。実は9月27日から始まった「安藤忠雄展―挑戦―」の前に上海に行ってみてきたいと思っていたのだが、果たせず残念。建築作品は他のアート作品と異なり実物を見るためには実地に行ってみなければならないのが前提に違いあるまい。安藤作品のように世界中に作品がある場合は見て回るのは大変である。実際、展覧会はその点でどうなるかと若干の懸念はあったのだが、展覧会は実にすばらしく興味深く面白い。

 

大阪にある「光の教会」が美術館の裏手の野外展示場に原寸大で再現されてある。これだけを見て体験しても安藤展に来た甲斐があると思う。安藤展については始まったばかりでもありいずれ稿を改めたい。アジアといえば、11月にはシンガポールのナショナル・ギャラリーで国際的な美術館組織CIMAMの年次大会が開催される。これまで国際博物館協議ICOMの一部門であったのだが、美術館協議が2年前の独立したのである。その独立総会は2015年秋に国立新美術館で行った。シンガポールには行くつもりだ。アジアの美術館も積極的になってきた。ICOMの三年ごとに開かれる総会は2019年9月に京都で開催される。この準備もいよいよ本格的になる。日本の博物館・美術館ももっとアジア重視をして企画その他に取り組まねばなるまい。私は美術館の仕事を始めて以来事ごとに「アジア重視」を主張してきた。具体的にどのようなことが出来るのか。大きな課題である。

(国立新美術館館長)

 

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