【インタビュー】公益社団法人 日展副理事長 加藤種男氏に聞く

2014年10月08日 17:00 カテゴリ:日展

 

改革することが日展存続につながる

 

公益社団法人日展は7月末、昨秋起きた書部門の入選事前配分問題に端を発した一連の報道の総括として理事長交代を含む大幅な審査・組織改革を発表した。106年の歴史で初の外部から理事・監事を迎え、副理事長には平成20年施行の公益法人制度改革関わった加藤種男・(公社)企業メセナ協議会専務理事(代表理事)が就任した。今回の大胆な改革案には加藤副理事長の影響力が大きい。文化芸術の分野に幅広い見識を持つ加藤氏に話を聞いた。

 

 

―日展、公募展についてのお考えは。

 

加藤 公募団体展の仕組みについては、あまりよくわかっていませんでしたが、今回相当勉強しました。ある意味で日本の美術をリードしてきたのは事実です。今回私は芸術性については一切意見を申し上げていません。しかし大きな社会的役割を果たしてきた日展に不祥事といいますか何らかの社会的に疑問を持たれるアクションがあったのは間違いないのです。それに対して改革を進めなくてはならない、と日展自らがそう考え改革を進めようと云う。たまたま公益法人制度に関わっているので、6年前の公益法人の改革の前からなのですが、民間の公益性と云うものについて主張していました。公益法人の運営、経営の在り方がどうあるべきか、を少なくとも考えてはきたので、外部の人間として日展の改革にアドバイスしてもらえないかと云われ、中身について詳しくアドバイスできずとも、仕組み制度の部分だけならアドバイスできるかもしれない。日展とか公募展にほとんど関心がなかったが故に逆に外部の人間として制度そのものの運営の仕方について、これでいいかどうか、いろいろと諮問があったものですからそれに対して一つ一つお答えをしたというわけです。結果的に日展側が、私がお答えした内容を相当程度、かなり反映して改革するといわれたので、これで十分かなと思っています。

 

 

日展の課題は審査の透明性

 

―改革案は日展には大変厳しい内容でした。

 

加藤 今回の改革案を進められれば外からいろいろ指摘を受けることが無くなるだろう、と思います。つまり一番の課題であったのは、当然のことですけど審査選考です。その部分は選考課程の監査をすること以外には、今までもまたこれからも私は一切関わりませんから、それは審査員をきちんと選び、しかも外部の人も入れることをお願いしました。それに対し「そうようにやります」という事でしたので、その点でいいかな、と。外部からの審査員の方も順次お一人お一人ずつ決められていくでしょう。

 

日展の課題は何だったかというと、審査に公平性、あるいは透明性が保たれていないのではないか、との疑義・疑念を持たれたことです。一番大きいのは直接的に金銭の授受があったとかは、第三者委員会でもそのような事実は発見出来なかったといわれる。私はそれを調べる立場ではありませんけど、それはその通りだと思います。

 

そうではなく研究会とか勉強会とか正確な名称はともかく、日展がそうした事前の研鑽を積まれるときに、長い間やってこられた方々の意見が、日展とは何ぞやとの考えが相当出てくる、当然後輩たちが先輩方の意見を聞かれる。それは別段間違っている訳ではない。ところが、それが審査に全く影響しなかったかどうかというと、何とも言いようがない。金銭の授受とかの不正ではなくて明らかに研鑽の場で議論された、その意見が今度は審査に反映される可能性がある、それは止めていただきたい。そこの関係を断ち切らない限り永遠に疑念を持たれます。制度上課題があるとしたら私はそこのところだけだと思っています。

 

作家同士の研究会や研鑽を積まれるのはよろしいでしょう。ただ、それが審査会に反映するのは止め、もっとニュートラルな審査をしていただきたいだけです。その部分を多とするために、いろいろ外部の審査員を入れるとか、運営の役員に迎える人を入れるとか、外部の人に委嘱するとか、そういうことを実施してから組織に透明性に疑いを持たれるような組織形態は止めてほしいと。

 

まず、役員とは運営のためのガバナンスの部分は、理事が全て行うのが公益法人の基本ですから。公益社団法人は理事が日常的な運営をやる、全体的な事柄は会員総会で決める。総会が最終的な意思決定機関です。その負託を受け理事が日常的な業務をやる、この関係以外にありえません、それ以外に顧問とか会長、参与、参事、評議員、いろんなかたちでおられたのを全部フラットにしてほしいと申し上げた。役員と会員、とはいえ一部、顧問は名誉職で審査に一切タッチしないという条件でなら、その制度はあっていいと思います。

 

 

「日展らしさが無くなる危惧はどこにもない」

 

―そうした形で今年の「改組 新 日展」を開く。

 

加藤 そう開かれるのであれば、日展改革のスタートしては良いと思います。私としては細かい点でもう少し要望するところがあるのですが、急に全部出来ないようなので部分的に少し時間がかかるのは仕方ない、時間をかけて取り組んでいただければいい、と申し上げた。基本的な大きな方向性、制度改革としては思い切ってされたので、これで新生日展を運営されればいいのではないか。万が一、決めた事柄に逸脱するようなことが有れば、それは直ちに資格を停止するという条件をつけましたから。出品できないとか会員資格を失うこともきめました。あとは粛々と実行していただければ。

 

―外部有識者8人を含む「改革検討委員会」では様々な意見が出されたのですか。

 

加藤 全体に一つだけ強く皆さんが、特に日展を古くから応援しておられる有識者の先生方から出ていたのは日展らしさ、質を担保できることとかを仰られていました。それに対して私の意見は質、日展らしさを担保するというならそもそも存続を図らなければならない、改革しない限り存続も危ういですよと。もし一般社団法人に戻られるのならそれも一つの方法で、ある程度許容される範囲がもう少しある、それなら別ですけど。ただこれまで日展が積み上げてきた資産が没収になってしまう。そういうことから一般社団に戻らず公益社団のまま行くと日展は自ら決断された。その選択についてもアドバイスしましたが、公益でなら存続が何より大事なので、それには改革するしかない。これまで通りでは存続は無理と率直に申し上げました。その前提がなければ質とか日展らしさの話にならないのです。会員の皆さんは従来のままでおられる、それを止めようとは言ってません。その意味で最高意思決定機関の総会はそのまま存続します。日展らしさが無くなる危惧はどこにもないと思います。むしろすっきりして世間からも評価されて応募者も増え、あるいは見に来られる方も日展も変わったな、確かによくなったね、と。技術は良くても一方で何かドロドロしたものがあると言われている限り、結局応募者も来館者も敬遠することになります。

 

―奥田理事長、土屋副理事長・事務局長にアドバイスは。

 

加藤 実はこの間、前理事長は身を引くことになりましたが、お三方と相当何度も議論して参りました。当初は、改革についてよく理解されなかった。ですからダメかなと思いました。しかし途中からよく理解していただいた。そして日展内部の改革委員会とも、各科5人ですが、何度も議論しました。その中で皆さんも相当理解していただいたのです。正直申し上げて、私はそれぞれの方々の業績を詳しく存じ上げません。奥田先生はじめ少なくとも改革に取り組もうとする意欲は高く評価できます。新理事長・事務局長お二人は「頑張ります」と仰っていただきました。新生日展となれば更に一層高い評価を受けると確信します。

 

―公募美術展は戦前戦後を通じて美術史上大きな役割を果たしました。

 

加藤 ご案内の通り公益法人には主務官庁はありません。ということは文科省、文化庁が特に指導することは出来ないのです。もちろん内閣府にある公益等認定委員会を通じて総理が命令することはできますが、あくまで同委員会が審査している訳です。それも主務官庁ではないので審査し、もし相応しくない行為があったら勧告アドバイスしたりします。文科省も文化庁も主務官庁ではないとしても元々日展成立の経緯からして国がつくったようなものですから当然無関心ではいられません。もう一つ文部科学大臣賞がありますので、その観点から改革してもらわないと賞を提供することは出来ないと率直に意見をいわれたと思います。それは指導とは微妙に違うことです。私は、個人的な意見として申し上げていることですが、大臣賞とかはいずれ速やかに復活するにしても1年2年とかは返上されてもいいのではと、それぐらいの事があってもいいです。遠からず復活するべく日展側が文科省などに働きかければいいと思います。実を示すこと、新生日展をきちんとやらないと説得力ないです。何より質がこれまで以上に上がった、といわれることです。そこは日展会員の先生方に頑張ってもらって作品勝負してもらわないと、こういう時だからこそ邁進して「これでどうだ!」と。

 

―今後どれくらい日展改革に関われるのか。

 

加藤 条件を付けてありまして1期2年をお引き受けします。もう一つ、2年のうちに改革の目途が立ったら辞めます、逆に改革の目途が立たない時も辞めさせていただく、任期途中でもそうします、と申し上げました。

 

 

加藤種男(かとう たねお)氏プロフィール

1948年兵庫県生まれ。90年アサヒビール企業文化部創設に際し、同社に入社以来、アサヒ・アート・フェスティバルはじめ同社の文化活動全てに関わる。企業メセナ(芸術文化を通じた社会創造)活動をリードする。08年芸術選奨文部科学大臣賞受賞。主な現職として文化審議会文化政策部委員、東京都歴史文化財団エグゼクティブ・アドバイザー、埼玉県芸術文化財団評議員などを務める。主な著書に『地域を変えるソフトパワー』(共編著)12年、『新訂 アーツ・マネジメント』(共著)06年など。

 

「新美術新聞」2014年10月1日号(第1356号)3面より


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