【丸の内】 ヴァロットン展―冷たい炎の画家

2014年06月06日 10:10 カテゴリ:最新の展覧会情報

 

類い稀な個性に再評価の目

杉山菜穂子(三菱一号館美術館学芸員)

 

フェリックス・ヴァロットン《ボール》1899年、油彩/板に貼り付けた厚紙、48×61 cm、パリ、オルセー美術館蔵 © Rmn-Grand Palais (musée d’Orsay) / Hervé Lewandowsky

19世紀末、スイス、ローザンヌのプロテスタントの中流家庭に生まれたヴァロットンは、スイスとフランスという二つの国と、二つの世紀を跨いで活動した画家である。弱冠16歳で画家を志してパリに赴き、アカデミー・ジュリアンで学んだ後、モーリス・ドニやボナール、ヴュイヤールらとともに前衛芸術家集団「ナビ派」に参加し、19世紀末パリの芸術に重要な役割を果たした。白と黒のみを用いた斬新な構図と世紀末の社会生活を辛辣な観察眼で捉えた風刺的な主題によるヴァロットンの木版画は、後世の芸術家たちにも多大な影響を与えたと言える。しかし、ナビ派のグループで「外国人のナビ」と渾名された異端の画家ヴァロットンは、どの流派にも属さない独自の画風により近年まで正当な評価がなされず、日本でもほとんどその名を知る人はいないだろう。本展は、美術史上で忘れ去られていたこのスイス生まれの異才を取り上げる、日本で初めての回顧展となる。

 

フェリックス・ヴァロットン《お金 (アンティミテ Ⅴ)》1898年、木版/紙、17.9×22.5 cm、三菱一号館美術館蔵

フェリックス・ヴァロットン《お金 (アンティミテ Ⅴ)》1898年、木版/紙、17.9×22.5 cm、三菱一号館美術館蔵

2013年10月からのパリ、グラン・パレでの開会を皮切りに、アムステルダム、ゴッホ美術館、そしてこの6月からは東京三菱一号館美術館で開催される国際巡回展「ヴァロットン—冷たい炎の画家(Félix Vallotton(1865-1925) . Le feu sous la glace)」展によって、類い稀な個性を持つこの芸術家に、再評価の目が向けられることだろう。

 

展覧会は、1.線の純粋さと理想主義、2.平坦な空間表現、3.抑圧と嘘、4、「黒い染みが生む悲痛な激しさ」、5.冷たいエロティシズム、6.マティエールの豊かさ、7.神話と戦争の7章によって、ヴァロットンの個性溢れる芸術を概観する。胸騒ぎのする風景、不穏な空気の漂う室内、クールなエロティシズムを秘めた裸婦等、独特の視点を持つ作品は、斬新であると同時にまるで解けない謎のように重層的で、観る者に複雑な感情を抱かせずにはいられない。氷のように冷やかで滑らかな画面の裏側に、社会的欺瞞への批判、人間関係への不安や欲望を描き出すヴァロットンの芸術は、驚くべき現代性を有している。

 

フェリックス・ヴァロットン《貞節なシュザンヌ》1922年、油彩/カンヴァス、54×73 cm、ローザンヌ州立美術館蔵 Photo: J.-C. Ducret, Musée cantonal des Beaux-Arts, Lausanne

フェリックス・ヴァロットン《貞節なシュザンヌ》1922年、油彩/カンヴァス、54×73 cm、ローザンヌ州立美術館蔵 Photo: J.-C. Ducret, Musée cantonal des Beaux-Arts, Lausanne

三菱一号館美術館所蔵の187点のヴァロットン版画コレクションから選りすぐった約60点の版画に加え、パリ、オルセー美術館とスイスのヴァロットン財団の協力により世界各国から集められた貴重な油彩画約60点が一堂に会する本展は、ヴァロットンというミステリアスな芸術家の全貌に触れることの出来る極めて貴重な機会となる。

 

【会期】 6月14日(土)~9月23日(火・祝)

【会場】 三菱一号館美術館 (東京都千代田区丸の内2-6-2) ☎03-5777-8600

【休館】 月曜、ただし祝日の時は開館

【開館時間】 10:00 ~18:00 (金曜(祝日除く)のみ20:00まで、入館はそれぞれ閉館30分前まで)

【料金】 一般1600円 高校生1000円 小中学生500円

【関連リンク】 三菱一号館美術館

「新美術新聞」2014年6月11日号(第1346号)1面より

 


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