【南青山】 コレクション展 清雅なる情景 日本中世の水墨画

2013年10月02日 16:02 カテゴリ:最新の展覧会情報

 

室町文化の核心を展示

 

島尾新

 

(左)重要文化財「江天遠意図」 伝周文 大岳周祟他11僧賛 1幅 室町時代 15世紀
(右)重要文化財「観曝図」 芸阿弥筆 1幅 室町時代 文明12年(1480) 根津美術館蔵

根津美術館は、いうまでもなく「室町水墨画」の大コレクションのひとつである。創立者の初代・根津嘉一郎の収集に、小林中・茂木克己両氏の寄贈品も加わって、南北朝から室町時代にかけての水墨画の流れを一覧できるだけの作品が揃っている。ここに載せた「江天遠意図」は、室町前期を代表する画僧・周文の筆と伝えられるもの。芸阿弥の「観瀑図」は、足利将軍の側に仕えた人の今に残る唯一の絵。そして拙宗と名乗っていた若き雪舟の「山水図」もある。それらがまとめて展示されるのは12年ぶり。新築のギャラリーでは初めて、禅僧そして室町人が心を遊ばせた墨の世界が甦ることになる。水墨画ファンには嬉しい「久方ぶり」である。

 

50点ほどの掛軸と屏風が二室に別れ、ゆったりと掛けられ置かれている。まず見たいのは、全体の雰囲気。屏風を除けば、強烈に目に飛び込んでくる作品はない。だいたいの絵は幅が三十センチほど。その小さな画面と墨の色とが場の基調を作り出している。大きな空間には不向きだが、根津美術館のギャラリーは、そんな世界も意識して作られていて、閑かで落ち着いた水墨の雰囲気がよく分かる。そもそも掛け並べるものではなかったから、こんな風に概観できるのは私たちの特権ということになる。強烈なヴィジュアルが溢れるなか、たまには「閑か」もいいだろう。
その全体を感じながら絵に向かう。隣同士が邪魔し合わないように、間は十分に空いている。小さな画面には、様々な主題が細やかに描き込まれている。人々をやさしく守ってくれる白衣観音や、空想の中国風の山水の景、杜甫や布袋といった中国の詩人や禅の奇人たち、そして蓮に白鷺などの花と鳥……。造形的な強さとは反対を向いた、丁寧なやさしい水墨である。中国に倣いながら、このほっとする感じはこちらに独特のものだ。

 

「山水図」 拙宗等揚 1幅 室町時代 15世紀 根津美術館蔵

そうなる理由は、ただ「見られる」ものではなかったから。「見る」と「読む」と「感じる」を重ね合わせて「味わう」とでもいえばいいだろうか。「江天遠意図」は「都市の喧噪を避けてこんな所に住みたい」という現実には叶わぬ隠逸への思いを、絵の世界で満たしてくれるもの。禅僧たちが記した画上の詩には、そんな気分が満ちている。「観瀑図」は、芸阿弥が弟子・祥啓に与えた画法伝授の証し。祥啓は関東の水墨画の中心となった人で、その代表作も隣に並んでいるが、絵は師弟の物語でもある。杜甫や布袋に見られる中国文化への憧れと禅を含めて―やや大げさにいえば―ここには室町文化の重要な部分が展示されていることになる。その気分を味わいながら、水墨の小さな世界に心を遊ばせてい頂ければと思う。

(美術史家)

 

コレクション展 清雅なる情景 日本中世の水墨画

 

【会期】 2013年9月11日(水)~10月20日(日)

【会場】 根津美術館(東京都港区南青山6-5-1)☎03-3400-2536

【開館時間】 10:00~17:00 (入場は16:30まで)

【休館】 月曜、ただし祝日のとき翌日

【料金】 一般1,000円 学生[高校生以上]800円 中学生以下無料

【関連リンク】 根津美術館

 

「新美術新聞」2013年9月21日号(第1323号)7面より

 


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