【金沢】 工芸未来派 ART CRAFTING TOWARDS THE FUTURE

2012年06月18日 12:29 カテゴリ:最新の展覧会情報

 

幅広く多様で独創性に満ちた12作家を紹介

秋元雄史(金沢21世紀美術館館長)

 

今日の工芸表現を現代美術との関連から読み解く展覧会である。

青木克世「予知夢XIII」2010年 撮影:末正真礼生

 

出品作家は、12名で、それぞれは年齢も制作のバックグラウンドも異なる。共通性は、工芸の今日的な姿を個々の表現が作り出しているところであり、工芸の歴史性に配慮しながらも今の時代の視覚メディアとして工芸を再構築しようとしているところである。

 

ここでいう今日性とは、写真、映画、漫画、アニメーション、コンピューターグラフィックス、現代美術、デザインといった現代の視覚メディアと比較しうる時代感を有しているという意味である。

 

青木克世は工芸として認識されるよりも現代美術の世界で活躍しているし、桑田卓郎は現代美術との関連を指摘でき、両者とも美術全体のコンテキストへの注視や作品の空間展開、いわゆるインスタレーションに気を配る。また、中村康平は長らく現代の工芸と現代美術との関係の中で工芸を思考し作品を制作してきたキャリアをもち、ここへきて工芸の語彙である装飾パターンを最大限に活用した作品展開をしている。大樋年雄は日展に出品する現代工芸美術家協会に所属する大樋焼の作家であるが、茶碗制作をドキュメンテーションしながら、そのプロセスを作品として提示するといったコンセプチュアルな展開をする。また中村信喬は、伝統工芸に出品する博多の人形師であるが、同時に木彫、石彫も制作し、それらを群像として構成し、物語性の強いインスタレーションを展開している。猪倉高志は、今日の造形的工芸の一翼を担う作家であり、工業デザインとの関連を指摘できるシャープな形態をつくる。葉山有樹は、有田から出発し、染付の歴史を遡り、高い技術力に裏打ちされた物語性の強い今日的な絵付けを展開する。見附正康は、九谷の赤絵の技法を使って独特の装飾空間をつくり、葉山とは異なった文様絵付けの可能性を展開する。また、漆表現では、雲龍庵(北村辰夫)、山村慎哉ともに伝統技法を駆使しつつ、技法の伝承と個性的表現の問題を独自の世界観を通じて展開する。野口晴美は、出品作家中もっとも原初的なアプローチによって神話的な人や動物の形態をつくる。

桑田卓郎「黄緑化粧白金彩梅華皮志野垸」2011年 撮影:市川靖史

このようにまったく異なる表現をする12名の作家たちがそれぞれの作品世界を展開しているのが、「工芸未来派」展である。この展覧会を通じて伝えたいことは、工芸はわれわれが想像する以上に幅広く、多様な表現メディアであり、現代美術にも比較しうる独創性に満ちた表現メディアであるということである。キュレーターである私がこのような感想を抱くまでにこれまで三回の展覧会を行ってきたが、この「工芸未来派」は、それらで実験的に試みてきた「開かれた工芸」という私なりの課題に対する答えでもあり、また、新たな課題発見の場ともなるものである。工芸が工芸の中だけで語られる時代は終わりつつある。新たな地平を切り開く一歩踏み込んだ表現こそ期待されている。

 

【会期】2012年4月28日(土)~8月31日(金)

【会場】金沢21世紀美術館(石川県金沢市広坂1-2-1)

☎076-220-2800 【休館】 月曜、7月17日、ただし7月16日、8月13日開館

【開館時間】 10:00~18:00(金・土曜のみ20:00まで、入館は閉館30分前まで)

【料金】 一般1000円 大学生・65歳以上800円 小中高生400円

【関連リンク】 www.kanazawa21.jp

 

「新美術新聞」2012年6月1日号(第1281号)1面より

 


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