【日本橋】 佐藤泰生展 ―風と光と夢―

2013年03月29日 18:27 カテゴリ:新制作協会

佐藤泰生の「快の絵画」に潜む絵画論

中村隆夫(多摩美術大学教授・美術評論家)

 

 

「公園と子供たち」112.1×145.5cm 油彩、キャンバス

「公園と子供たち」112.1×145.5cm 油彩、キャンバス

 

陽気さ、楽しさ、軽快さ・・・、佐藤泰生の作品には「快」がある。作品を見た瞬間に大方の人がそう思うに違いない。ふとマティスの「私が夢見るのは人の心を乱し、気を滅入らせるような主題のない、調和のとれた、純粋で静謐な芸術である」という言葉が浮かぶ。

 

佐藤泰生という画家は実に繊細、ナイーヴである。こんな風に書くと、嫌がる彼の顔が浮かぶ。東日本大震災に際して、彼は体調を崩し、帯状疱疹まで出てしまった。彼のこうした繊細さ、心優しさは飄々とした風貌の下に隠れ、なかなか見えてこない。彼の絵の「快」は、彼が求める「快」なのである。だが飄々とした風貌と同じく、彼の絵には独自の深い絵画論が隠されている。

 

「旭日 富士と波」193.9×112.1cm 油彩、キャンバス

「旭日 富士と波」193.9×112.1cm
油彩、キャンバス

《公園と子供たち》の背景は大胆にもオレンジが使用されている。大地でもあり、空間にもなっている。黄色の服の人物がすぐに目に入る。この強烈な色彩の対比を和らげ、しかも画面を活気づかせるためにピーコックブルーを使用している。この色は隣の少女の服の色彩となり、女性の足下の花壇となり、画面に点在する色彩のアクセントになっている。そしてまた赤の柔らかい線が部分的に人物の輪郭をなぞる。こうした色彩の使い方は彼の優れた色彩感覚の賜であるが、地のオレンジが別の色彩に変われば、また別の色彩とフォルムに変わらざるを得ない必然性がある。

 

右から二番目の赤い子供の右脚は何気なく見えるが、ピカソの《アヴィニョンの娘たち》のぐにゃりと曲がった鼻のように、視点の移動によるフォルムである。また人物たちの垂直軸は異なる方向性を見せ、動きに伴う揺らぎを感じさせる。そのバランスは感覚的なものだが、彼の緻密な計算に基づいているのはもちろんだ。手を繋ぐ輪は画面の端を通り抜けて再び循環する。この循環の感覚は、《旭日 富士と波》では色彩となって現れる。旭日の光では前景の海はこんな青にはならない。彼は虹の色彩を意識し、画面内でこれが循環することを暗示し、独特な躍動感を画面に宿らせている。

 

 

「パリ セーヌの流れ」181.8×227.3cm 油彩、キャンバス

「パリ セーヌの流れ」 181.8×227.3cm
油彩、キャンバス

《パリ セーヌの流れ》の前景左のノートルダム寺院に、山水画における松の役割を課している。山水画では松の大きさは現実とまったく関係なく描かれ、それでもしっかりと画面に収まっている。《青緑山水湘南》では「山水」と銘打ち、前景にはっきりと松が描かれている。

 

佐藤泰生は自分の求める「快」を表現するために、自然を観察し、実に多くの絵画的研究と研鑽を積み、さりげなく画面に応用するのである。「楽そうな絵を描いているように見えても、実際に描くのは大変なんですよ」と、淡々と笑みを浮かべて言う。そこがまたこの画家らしさなのである。

 

「パリの公園」 97.0×130.3cm 油彩、キャンバス

「パリの公園」 97.0×130.3cm 油彩、キャンバス

 

【会期】 東京展 = 2013年4月3日(水)~9日(火)

【会場】 髙島屋日本橋店6階美術画廊(東京都中央区日本橋2-4-1)☎03‐3211‐4111

【開館時間】 10:00~20:00

【休館】 無休 【料金】 無料

【関連リンク】 髙島屋日本橋店

佐藤泰生 公式ホームページ

ギャラリートーク 4月6日(土)15:00~

 

【巡回】

横浜展=4月17日(水)~23日(火)髙島屋横浜店7階美術画廊

大阪展=5月22日(水)~28日(火)髙島屋大阪店6階美術画廊

名古屋展=6月5日(水)~11日(火)ジェイアール名古屋タカシマヤ10階美術画廊

 

 

 

「新美術新聞」2013年4月1日号(第1308号)1面より

 


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