【上野】 手の痕跡

2012年12月04日 18:02 カテゴリ:最新の展覧会情報

 

―国立西洋美術館所蔵作品を中心としたロダンとブールデルの彫刻と素描―

 

所蔵品でたどる彫刻家ふたりの対話

大屋美那(国立西洋美術館主任研究員)

 

オーギュスト・ロダン「エヴァ」 1907年 ブロンズ 国立西洋美術館蔵

国立西洋美術館では、現在ロダンとブールデルの彫刻69点を所蔵している。これらは当館の彫刻コレクションの中核を占めるだけでなく、国内所蔵のロダンとブールデルの作品として質、数の面から貴重なものである。ところが当館ではこれまで常設展示でその一部を紹介してきただけで、長くこれらを一堂に展示する機会がなかった。今回は『手の痕跡』と題し、こうした当館所蔵のロダンとブールデルの彫刻に加え、素描・版画22点、東京国立博物館所蔵のロダン彫刻1点を展示している。なかには国立西洋美術館では、開館当初に公開して以来約40年ぶりの展示となる作品もある。

 

ロダンとブールデル、21歳の年の差のあるふたりは、ともにアカデミックな彫刻界から距離を置き、新しい立体表現の可能性を提示し続けたフランス近代を代表する彫刻家である。新古典主義の彫刻が滑らかに磨き上げられた仕上げに特徴があるのと比べると、ロダンやブールデルの作品の表面は、あえて素材の粗いテクスチャー、指や型、道具の跡を傷跡のように残し、生々しさを露にする。それはまぎれもなく作者の手の跡であり、観る者が彫刻家の存在を間近に感じる重要な要素となっている。他方で、彫刻は絵画と異なり、元である彫刻家の手から、観る者の目に触れるまでに、多くの他者の手を経る芸術でもある。ブロンズ彫刻であれば鋳造職人、大理石彫刻であれば下彫り職人、また拡大や縮小を専門にする者など、さまざまな分野の職人たちの手が介在する。じつはブールデルも1893年から1908年まで15年間、ロダンのもとで主に大理石彫刻の下彫り職人として働いた。

 

エミール=アントワーヌ・ブールデル「横たわるセレネ」1917年 ブロンズ 国立西洋美術館蔵

今回の展覧会では、彫刻家ロダンと職人ブールデルの関係を直接的に示す作品を見ることができる。前庭と館内会場に展示したふたつの《エヴァ》である。この2点は全体の形は似ているが、よく見ると表面の仕上げや部分的な構成が異なっている。先に制作された《エヴァ》(東京国立博物館所蔵)は未完成のまま約20年間置かれた後、ブールデルによって大理石彫刻として完成され、それをもとにして鋳造されたのが、国立西洋美術館所蔵の《エヴァ》である。本展では彫刻作品に残る作者の痕跡という点に着目し、時には師と弟子、また別の場面ではライバルとして対峙したふたりの彫刻家の足跡を辿る。

 

本展にあわせ、国立西洋美術館の教育部門の企画であるFun with Collectionが開催されている。「彫刻の魅力を探る」と題した本企画では、石膏、ブロンズ、大理石、テラコッタの材料や技法の違いを示す展示などにより、彫刻表現の多様性に迫る。(詳細はホームページなどでご確認ください)

 

【会期】 2012年11月3日(土・祝)~2013年1月27日(日)

【会場】 国立西洋美術館(東京都台東区上野公園7-7)

☎03-5777-8600(ハローダイヤル)

【休館】 月曜、12月25日、12月28日~1月1日、1月15日(ただし12月24日、1月14日は開館)

【開館時間】 9:30~17:30(金曜のみ20:00まで、入館は閉館30分前まで)

【料金】 一般800円 大学生400円

【関連リンク】 国立西洋美術館 公式ホームページ

 

ギャラリー・トーク

12月14日(金)、1月11日(金) ともに18:00~

【解説】 大屋美那(国立西洋美術館主任研究員)

【会場】 企画展会場入口

※参加無料、要展覧会観覧券

 

※図版の作品は2点とも松方コレクション 撮影:上野則宏

 

「新美術新聞」2012年12月1日号(第1298号)1面より

 


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