【富士山エッセイ】 世界文化遺産登録記念 我が心の富士山〈1〉 奥谷 博

2013年07月27日 16:13 カテゴリ:エッセイ

我が心の富士山〈1〉 奥谷 博

 

林武 「富士」 1965年

林武 「富士」 1965年

 

富士山といえば葛飾北斎の「冨嶽三十六景」、富岡鉄斎の「富士山図」などもありますが、私の心のなかにあるのは恩師林武先生の富士山です。箱根に小屋を構えられ、生涯に100点くらい描かれているのではないでしょうか。

 

15年程前、私にも富士を描く機会が訪れ、どの場所から描こうかと探していたときに、出合ったのが山中湖近くにある「ホテルマウント富士」からの景色でした。そこから富士山を眺めていると、ふと林先生の作品にもこの場所があったのではないかと思い支配人に尋ねると、やはり一番はずれの眺めの良い部屋から富士を描いていた、というエピソードが聞けました。

 

実際に富士を描いてみると、大地にしっかりと腰を据え空に伸びている、そのバランスが大変すばらしく、遠くから見ても近くから見ても大変均整のとれた山ですが、近くで見ると総合的な美しさとともに、やはり山であることの根本的な容、実体を掴むことができました。

 

林先生の描かれたこの富士は箱根のスカイライン辺りから見たもので、裾野がぐーっと山頂に向かって伸びている感じが、とても魅力的です。そのなかに家がちょこちょこと描いてある、富士山としては初期の頃の作品です。

(1934年生まれ、洋画家、文化功労者、独立美術協会会員)

 

「新美術新聞」2013年7月11日号(第1317号)1面より

 

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