[フェイス21世紀]:林 銘君〈日本画〉

2023年10月09日 13:00 カテゴリ:コラム

 

”身体”を問い直す絵画

 

《引用III》 2022年 92×155㎝ 吉祥麻紙、墨

《引用III》 2022年 92×155㎝ 吉祥麻紙、墨

 

白黒のモノクロームに支配された画面。額縁のような枠組は不均等に配置され、その内側に閉じ込められたカタツムリが窮屈そうにうごめいている……

 

描かれるものは明瞭ながら、林銘君の作品には、これは一体何なのだろう、と考えずにいられない象徴性がある。

 

北京市の大学で美術教育を修めた林は、留学先の多摩美術大学で日本画に出会い、未知のものを知りたい一心で専攻した。
そして、伝統技法をもとに新たな表現を模索するなかで、林は自分自身の“身体性”に目を向けた。

 

幼少期から、心に不安が生じると小指が欠損したかのような不快感に悩まされていた林は、身体の感覚に対して一際強い関心を抱いてきた。
そして、人間の身体には自分たちが認識している以上のものがある、という考えを持つに至る。

 

自身が感じる“身体性”の驚異をいかに表象するか?
そのために、人体を描くのは欺瞞であると考えカタツムリをモチーフに選んだ。

 

《アトラースI》 2021年 53.0×45.5㎝ 雲肌麻紙、岩絵具

《アトラースI》 2021年 53.0×45.5㎝ 雲肌麻紙、岩絵具          象徴的なタイトルも林の作品を印象付けている。ギリシア神話に登場する天を支える神の名を引き、天どころか自分自身を支えることもできない人間をアイロニックに表現している。

 

外部から刺激を受け、直接的に身体を反応させるカタツムリは、意識では捉えきれない純粋な身体性という概念に近い生物だったからだ。

 

日本画の特色も活かしながら、自身の繊細な感性が表現された林の作品は、カタツムリというメタファーによって、人間の脆弱さや自己矛盾さえも露呈させる――

 

身体のレベルに立ち戻って、絶えず自己や人間性を問い続ける。

 

その制作プロセスを通じて林が思い描くのは、自己を見つめることで、自分の内面が変化し、その変化によって他者や社会との関係性が絶え間なく更新されること。

 

《出口》 2023年 59.4×42.0㎝ 高知麻紙、墨

《出口》 2023年 59.4×42.0㎝ 高知麻紙、墨        最新作ではモチーフをカタツムリからカラスに変えた。本物のカラスと鳥よけのために作られた紙のカラス、二つは本質的に何が、どう、異なるのか。ここでも、これまでとは角度を変えて林独自の身体性への思考が試みられている。

 

「うまくいくこともあれば壁にぶつかることもあるかもしれない。けれど描くことで、私の人生に根本的な変化が起きるのを楽しみにしていたい」

 

林が追い求めているのは自己のより開かれた可能性、さらには表現の可能性なのだ。

(取材:原俊介)

 

Yu Harada(新宿区住吉町)での個展会場にて(8月30日撮影)

Yu Harada(新宿区住吉町)での個展会場にて 最新作《出口》を前に(8月30日撮影)

 

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林 銘君(Lin MingJun)

 

1995年中国・福建省生まれ。2019年中央民族大学(北京市)美術学専攻卒業。21年多摩美術大学大学院日本画専攻入学、初個展「カラダになり」(美の舎/東京・2022年)開催。23年同院修了。22年「第9回未来展」(日動画廊)グランプリ、23年「日本の絵画2022」(永井画廊)大賞、「第49回春季創画展」春季創画賞など受賞多数。

 


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