[フェイス21世紀]:秋葉 麻由子〈日本画家〉

2023年04月17日 12:00 カテゴリ:コラム

〈ハッピーエンド〉をすくいだす

 

秋葉麻由子

秋葉麻由子

 

日々の生活で見逃してしまいそうな瞬間に宿るきらめきを、シンプルな造形で表現する秋葉麻由子。

 

岩絵の具や箔といった日本画の質感を活かしたあたたかみある作品は、創画展を中心に注目を集めている。

 

《いつもここで》 ●●●●年

《いつもここで》 2022年 60.6×72.7cm 雲肌麻紙、岩絵の具、膠、砂

 

両親兄妹全員が医学の道へ進んだ医者一家の出身だが、秋葉はただ1人美術に熱中。当初は親の計らいで通い始めた地元の絵画教室も、気が付けば4歳から高校卒業まで習っていたという根っからの美術少女だった。

 

それでも、初めての美大受験では志望校にことごとく落ちるという苦い経験をする。落ち込んでいた折り、武蔵野美術大学教授・山本直彰との出会いがあった。

 

講演会で山本にかけられた言葉から秋葉は奮起。努力の末に憧れだった武蔵野美大へ編入を果たす。

 

大学で再会した山本は人間味にあふれ、日常話を愛する人柄。講義の後には居酒屋へ連れだって、とりとめない会話を交わすのが何より楽しみだった。

 

お酒を飲みながら交わす何気ない言葉やさりげない振る舞いに息づく生の感触は、秋葉の創作にも刺激をくれた。

 

《小平爆走物語》 ●●●●年

《小平爆走物語》 2023年 72.7×90.9cm 雲肌麻紙、岩絵の具、膠、箔、砂                                         子どものころ、宇都宮に巡回した院展を観て日本画の持つ独特の質感に興味を持ったという。「これは何で描いてるんだろう? って率直に思いました。それからどんどん好きになって、日本画を専攻するということに迷いは一切ありませんでした」

 

「人をそっくりそのまま描くことより、どんなことをしているか? ということに関心があります」

 

人の顔かたち、服装を簡略化するのは、一瞬の何気ない仕草を際立たせるため。対象を見つめる鋭く細やかな秋葉の観察眼によって、スナップ写真のように日常の一場面を切り取ってみせる。

 

元々は誰を描いても自分の顔に見えてしまうのが嫌だという理由から編み出した表現だったが、独自に抽象化した人物像には、写真とはまた異なる普遍性と魅力が宿る。

 

《●●●●》 ●●●●年

《タンデム―》 2023年 53.0×65.2cm 雲肌麻紙、岩絵の具、膠、砂

 

「大変なことがたくさんある暮らしでも、笑って終えることができればいいと思います」

 

日常に〈ハッピーエンド〉を見つけ出す。簡単なようで難しい秋葉の試みは、ありふれた日々の中で見逃されがちな生の輝きをすくいだしてくれる。

(取材:原俊介)

 

アトリエ風景

アトリエ風景

 

地元・宇都宮の絵画教室で工作からデザインまで学んだ経験を活かし、日本画の枠に留まらない制作を続ける秋葉。アトリエには、創作のための様々なアイデアが散りばめられている。

地元・宇都宮の絵画教室で工作からデザインまで学んだ経験を活かし、日本画の枠に留まらない制作を続ける秋葉。アトリエには、創作のための様々なアイデアが散りばめられている。

 

.

秋葉 麻由子(Akiba Mayuko

 

1995年栃木県生まれ。2019年武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻日本画コース修了、「第46回創画展」初入選。20年「第46回東京都春季創画展」初入選。ほか個展、グループ展多数。現在武蔵野美術大学日本画学科助教。4月24日(月)~29日(土・祝)銀座・スルガ台画廊にて「秋葉麻由子個展 ハッピーエンド」開催。

 

【関連リンク】秋葉麻由子公式ホームページ

 


関連記事

その他の記事