[画材考] 画家:久保尚子「刻み刻まれるもの」

2023年01月31日 17:46 カテゴリ:コラム

 

川島理一郎展に向かう車内にて(山手線)

川島理一郎展に向かう車内にて(山手線)

 

普段から物言わぬ花や静物を中心にひとり籠って制作している為か、時折外に出るとあまりに多くの人の営みと多様性、その眩しさに目がくらむ。

 

そんな内に向きがちな性質を改める為、電車などで移動する際は先の尖った硬目のボールペンを持ち出して人の姿をスケッチするようにしている。

 

時節の移ろいや人の暮らしの豊かさ、あたたかさをそうして肌で感じている。(やはり暗い)

 

季節毎に折々の服装を身にまといながら仕事、あるいはそれぞれの目的地に向かい電車に揺られ移動している彼等は物語の一節の様に魅力的で、小さなクロッキー帳(世界堂で見付けたミューズ社製) がすぐ埋まっていく。

 

数駅分の午睡 (東西線、西武線)

数駅分の午睡 (東西線、西武線)

 

首筋に気怠さと色香を漂わせている女性、
髪をまとめ隙を見せない装いで毅然と何かを思案している女性、
瑞々しさの溢れる女子高生や帰宅途中の女学生など、
おのずとスケッチしている対象は女性が多い。

たまに横に座った方などにぎょっとされているのが分かる。

 

 

 

 

私の中の男性性からの希求、などでは残念ながらなく、多彩な装束から覗く繊細な身体の線や陰影、醸し出す雰囲気のたおやかさ、艶やかさがそれだけで美しく絵になる為であるが、さすがに偏りがちな傾向を反省して、幸福そうなカップルや親子連れ、車窓からの風景なども描く様にしている。

 

そんな風に気の趣くまま手を動かしていると、自分は何を描きたいのか、という根源的な問題が浮彫りになって来るのでめげずに続けていきたいと思う。

 

 

花と人の気配は良く似ている。

 

 

大作や小品に埋もれている折々の制作風景

大作や小品に埋もれている折々の制作風景

 

箱にも埋もれている(個展前夜)

箱にも埋もれている(個展前夜)

 

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久保 尚子(くぼ・なおこ)web近影
1982年生まれ。京都教育大学教育学部美術科卒業。2014年白日会創立九十周年記念展にて初出品一般佳作賞。18年会員推挙。19年あべのハルカス近鉄本店にて初個展、福井県立美術館にて菱田春草作品とコラボレーション、第3回ホキ美術館大賞展入選、改組新第6回日展初出品新入選。20年第55回昭和会展入選、第96回白日会展にて瀧川画廊賞。21年姫路山陽百貨店にて個展、第8回日展にて特選受賞。22年第9回日展無鑑査出品、横浜髙島屋にて個展開催。現在、白日会会員・日展会友。

3月23日(木)~4月3日(月) 国立新美術館「第99回白日会展」、4月19日(水)~25日(火) 松坂屋名古屋店美術画廊「白翔会展」、5月17日(水)~23日(火) 大丸京都店ESPACE KYOTO「精鋭展」に発表予定。

 

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