【画材考】画家:新恵美佐子「勝手に師匠と呼んでる人」

2022年08月15日 12:00 カテゴリ:コラム

 

埃だらけでカビっぽい、無愛想な骨董屋主人の第一印象は「胡散臭い」だった。
20数年前に旅行先の中国・上海で偶然出会ったこの人物が、墨の魅力を教えてくれた私の師匠だ。

 

上海の骨董屋の主人

上海で出逢った骨董屋のご主人

 

ケースの中に古い墨が並べてあり、その中の一つを選び差し出した。
「松煙」の文字が読めた。表面は細かいひび割れで覆われていて、上からと下から半分近く擦ってあり、大きな欠けもある。

 

筆談で「民国前、七十年、好」などの文字を書いて、当時墨に関してど素人だった私にそれをすんなり売りつけた。
本物かどうか半信半疑ではいたものの、形姿が気に入ったのと勉強代と思えば納得できる値段ではあった。

 

古墨(松煙)

骨董屋で購入した古墨(松煙)

 

その後上海に行くたびに、その骨董屋を訪ねて常連さんになった。
初めて手にした古墨があまりに美しい色と空間を放ったので、すっかり虜になってしまったのだが、古墨は当時に比べると値上がりが激しくて、買いづらくなってしまった。

 

墨の絵を描く目的はとてもシンプルで、迷いながら諸々の組み合わせを決めていくことで、一期一会の出会いで手に入った墨を最大限に活かせているかどうかということに尽きる。
学んできた経験から決め事の選択が間違っていないと思っても、墨は使うたびに違う反応を見せるので、データ化は出来ない。

 

意思を持っているかのような画材だと思う。
自分が墨を扱っているんじゃなくて、たまたま墨のほうから表現の贈り物をくれることがある。

 

神奈川県民ホールでの個展会場風景

神奈川県民ホール(2021)での個展会場風景

 

《花》 2021年 360×388cm

《花》 2021年 360×388cm

 

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新恵 美佐子(しんえ・みさこ)

 

顔写真(1)

 

1963年大阪府生まれ。1989年、多摩美術大学大学院美術研究科修了。現在無所属。

主な個展に2004年「Shine Misako solo Exhibition」(Lalit Kala Akademi New Delhi)、19年「Flowers and Nostalgia」(Kala-Bhavana Visva-Bharati Santiniketan)、21年「新恵美佐子 ―墨の花―」(神奈川県民ホール)ほか林田画廊、日本橋高島屋で個展多数。今後、秋の特別展「日本画の粋 新見美術館コレクション選」(香川県立東山魁夷せとうち美術館)9月17日(土)~11月6日(日)に出品予定。

 

【関連リンク】新恵美佐子公式ホームページ

 


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