[画材考] 日本画家:絹谷香菜子「”姉妹”との暮らしの中で」

2022年07月11日 12:00 カテゴリ:コラム

 

絹谷香菜子氏と”姉妹”のラブラドールたち

絹谷香菜子氏と”姉妹”のラブラドールたち

 

私が美大に進学した1番の理由は、海がこの上なく好きで、海の絵を描きたいがためだったと言ってもいい。海中の水のうねりや頬に触れる感触、水の弾ける音、生ものの微かな音を聞くのが楽しく、自分が海に溶けていく感覚がとても気持ちよく感じられたからである。

 

しかしいざ美大に入ると海の絵を描くことは徐々に減り、その代わり動物たち全般を描くようになっていった。そのきっかけは当時、実家で飼っていたラブラドール3頭の個性と知性に感銘を受けたことにある。

 

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私の母親が犬のブリーダーであったため、親のラブラドールから18頭の子どもの出産を手伝い、そのうちの2頭と親のラブラドールを飼っていた。性格はそれぞれ違い、新聞を持ってきたりご飯の入れ物を持ってきておねだりする子もいれば、喧嘩の仲裁をする子、知らない間に電球や携帯を齧って悪さをする子もいる。私の膝をクッションだと思って大きい体をわざと乗せる子もいれば、反対に絶対乗らない子もいた。

 

どの子も私のお姉さんや妹のような存在で、彼女たちはこちらの目をじっと見つめて気持ちを伝えてくるので、会話ができたのであった。

 

彼女たちと共に過ごしたことで世界の見え方は一変した。外で飛ぶ鳥やゲージの中の鶏、動物園にいる動物たちの姿は変わり、「動物たち」と一括りではなく、一人の人間のように個性が見えてきた。

 

それからは海中の水の感覚を日本画絵具に置き換え、生きる者の命について見つめる作品を描くようになったのである。

 

(左)《昇鯉蓮華の輝き》72.7×60.6cm 墨、岩絵具、箔 (右)《白鳳風光る》72.7×60.6cm 墨、岩絵具、箔

(左)《昇鯉蓮華の輝き》72.7×60.6cm 墨、岩絵具、箔
(右)《白鳳風光る》72.7×60.6cm 墨、岩絵具、箔

 

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絹谷 香菜子(きぬたに・かなこ)
1985年東京都生まれ。2007年多摩美術大学卒業、2013年東京藝術大学大学院博士後期課程満期退学。
2011年には吉野石膏美術財団在外研修員としてロンドンに渡英。
多様な動物たちをモチーフとした作品を手掛ける。
7月13日(水)~18日(月)、日本橋三越本店にて「絹谷香菜子 日本画展―A Part Of Me―」開催予定。
 

【関連リンク】絹谷香菜子 公式ホームページ

 


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