[画材考] 美術家:福士朋子「ノート」

2021年05月31日 11:00 カテゴリ:コラム

 

21050111号5面画材考・福士朋子図版(岩田)

National Brand 33-002のノートブック

 

コロナ禍でのステイホームでは例にもれず自宅の断捨離に精を出したが、あちこちから使い終わった、あるいは使いかけのノートが出てきた。学生時代の大学ノート、1ヶ月坊主の日記帖、そして何冊もの同じタイプのノートが保存されていた。

 

私はこのノートを愛用していた。今でも入手できるのだろうか。以前は輸入雑貨店で常に手に入り、アメリカのドラッグストアにもある定番ノートなのだが、日本では見かけなくなった。検索すると今はネットで海外から購入するしかないものとなっていた。黄ボール紙のような表紙。20×13cm程度の少し縦長で80シートのリングノート。角に丸みがあるものが好きだった。薄くて少し透ける黄色い用紙に、淡いブルーの罫線が入っている。電車の中でもアイデアを書きとめ、旅先では日記帖に適したサイズだった。作品につながる大事なネタ帖でもあった。何よりこの手触りが与えてくれた安心感を思い出す。

 

フランス人アーティスト、フィリップ・ワイズベッカーのデッドストックのノートに描かれたドローイングを、ノートごと再現した作品集がある。古い紙の色だけではなく、質感までこだわって再現されていて、つい何度もページをめくってしまう。モニターで情報を受け取る時代に逆行して、ZINEのような紙のメディアによって発信する流れもある。「触れる」ことが予期せず制限されてしまった今、見ることと触れることの関係を改めて確かめてみたいと思う。

 

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《Stickers》2014年  粘着シートにプリント photo:Mareo Suemasa

 

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《Stickers》2018年 粘着シートにプリント photo:Mareo Suemasa

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福士 朋子(ふくし・ともこ)

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photo:Ken Kato

1967年青森県生まれ、美術家・女子美術大学教授。2005年東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程美術専攻油画修了。2011年SICF12グランプリ受賞。2018年「絵画の現在」(府中市美術館)、2020年-21年「メイド・イン・フチュウ 公開制作の20年」(府中市美術館)出品、
著書に「元祖FAXマンガ お絵描き少女☆ラッキーちゃん」(BLUE ART刊)、共著に福士朋子×北澤憲昭×櫻井拓「絵画と時間と『お絵描き少女☆ラッキーちゃん』をめぐって』(BLUE ART刊)がある。

 


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