[通信アジア]迷走する東アジア:青木保

2019年09月21日 15:00 カテゴリ:コラム

 

東アジアの情勢が危なく傾いている。

 

言うまでもなく、日本と韓国の間がこれまでになく危機的だ。貿易・経済問題から安全保障の問題にまで発展し、両国関係は深刻な事態を迎えているが、解決の兆しは見えない。韓国内の反日デモや日本製品不買運動も収まりそうにない。

 

それにしても、数年前、国立新美術館と韓国の国立現代美術館とが共同で「隣の部屋」という美術展を開催したことがあったが、両国からアーティスト6人ずつを両館の学芸員が時間をかけて一緒に選び、東京とソウルで開催した。当時も日韓関係は決して順調とは言えなかったが両館は緊密に連携し、展覧会は成功した。東京での開催の前には韓国の大臣が訪れ、祝意を漏らされた。またソウルでの開会式に出席して挨拶したが、大変好意的で大きな拍手を頂いた。この展覧会に関して東京でもソウルでも反日・反韓の動きは全くなかったし、嫌がらせなども全くなかった。

 

このとき、やはり「文化交流」は重要だ、と改めて感じた。政治関係は状況によって常に変化する面があるが、日本でも韓国でもそこで生きる人々の大半は変わらぬ日常生活を送っているわけで、アートを鑑賞し、音楽や映画やTVドラマや料理、また観光を楽しむ。

 

本来、この営みには政治的な反日・反韓も無いはずである。いま日本の政治も一般の日本人も今回の事態に対して冷静であり、特に社会が落ち着いているのがありがたい。日本は成熟した国であり社会であることをしっかりと示したい。日本では韓国の映画は常に変わらず上映されていて、その多くは評判もいい。TVドラマに至っては日本のテレビはNHKをはじめ韓国ドラマだらけだと言っても過言ではないくらいだし、韓国ドラマ見ない運動もない。ゴルフなどスポーツでも韓国選手は日本で活躍している。

 

まあ、世界どこでも隣国関係には困難が付きまとう。独仏、仏英然り、アメリカメキシコ、中露、ロシアウクライナ、インドパキスタンなど。隣国関係の歴史は血塗られているし、場所によっては今でも死者が出る紛争ありき、である。隣国関係は両国とも慎重に、そして大事にしてゆかねばならない。「文化交流」の意義を互いに認識しあってゆきたいものである。

 

香港の抗議デモは一向に収まる気配もないし、北朝鮮もミサイル発射など危険な動きをやめようとしない。フランスでのG7会議も首脳宣言が見送られた。「自国ファースト」主義に傾斜する世界は、分裂の危機にある。他方、グローバル化する世界は互いに持ちつ持たれつの割合が大きくなっており、どのような大国であっても一国だけでは本来やっていけないのが現実である。

 

この1月1日、朝、電話がありどこからかと思うと、北京からだった。尖閣問題が先鋭化して以来、長らく途絶えかけていた学術文化交流を再開したいとの意向で、日中関係は好転し始めたという実感を持った。早速、5月と10月のシンポジウムで講演を頼まれたが、5月はどうしても行けず、10月には行くつもりである。

 

迷走する東アジアとはいっても、日中関係は「文化交流」の面でも動き始めた。これを大事にしたいと思う。(政策研究大学院大学政策研究所シニア・フェロー)

 


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