[通信アジア]魅力ある建物があれば…:青木保

2020年05月21日 10:00 カテゴリ:コラム

 

私がいま最も強く魅かれ大きな関心を抱くアートの分野は建築である。

 

それにしても現代都市はどこもかしこも超高層ビルの乱立に覆われてしまった。背の高いビルによってできた現代都市といえばニューヨークであるが、それがいつの間にか香港、新宿、ドバイ、上海などに移って、私の感じるところ今や都市の非人間性の象徴のようになっている。パリだって凱旋門の裏手辺りにはこうしたビルが群れをなしている。

 

私がこうした現代の建築の高層化の中にあって、特に注目するのは美術館をはじめ文化施設における現代的な建物の魅力である。その嚆矢とされるのが、本欄でも触れたスペインはバスク地方の都市ビルバオにあるグッゲンハイムの美術館別館である。1997年に開館したビルバオ・グッゲンハイムは、フランク・ゲーリーのまさに奇抜なデザインによって世界を驚かせ、鄙びた古都ビルバオを一挙にスペイン有数の観光文化都市に押し上げた。これはまさしくアートである。2度訪れたが、また行きたい。

 

それ以来、新しい美術館を作るのに際して個性ある第一級の建築家にデザインを任せる傾向が顕著になった。美術館は特にその建物自体がアートとして魅力あるものでなくてはならない。

 

国内でも例えば黒川紀章作品の国立新美術館はガラス張りの外壁が湾曲した構造が美しい魅力を発揮しているし、妹島・西沢作品の金澤21世紀美術館、隈研吾作品の根津美術館、安藤忠雄作品の兵庫県立美術館など「見たい」建物による美術館がある。内部の展示よりも外部の建物への関心である。国立新美術館でも外で建物の写真ばかりを撮っているアメリカのご婦人たち一行が一向に中に入ってこないので、どうしてこないの、と聞くと私たちは建物に興味があって、と結局入ってこなかった。ジャン・ヌーヴェル作品のアブダビ・ルーブル(光の雨)、メッスの坂茂作品の仏国立現代美術館ポンピドゥーセンター別館、妹島和世作品のランスのルーブル別館など、現代を代表する建築家による魅力的な作品が多く世界に存在する。

 

日本の建築家も安藤氏をはじめアメリカやヨーロッパ、アジアで多くの文化施設の建築デザインを手掛けている。見たい作品は多い。

 

ところで私が今一番見たいと思っている建築作品は、ザハ・ハディド氏の作品だ。

 

東京の新国立競技場問題では残念な結果になったが、彼女の作品は長い間実現しないデザインといわれ UNBUILD の女王とも評されたが、その死(2016年)後も続々と世界で作品が完成している。建築技術が彼女のアイデアにようやく追いついたなどともいわれるが、写真で見るだけでも興奮する素晴らしさだ。なかでも私が現在一番行ってみたいのが、アゼルバイジャンの首都バクーにあるヘイダル・アリエフ・センターである。2012年にできたこの複合文化センターは、その流れるような線による大胆なデザインでバクーの魅力になっているが、巨大な建物を実地に見てみたいのだ。バクーは以前にも書いたアブダビと並んで私が日本の世界における戦略的学術文化交流基地と位置付ける場所であり、カスピ海に臨む産油国であるアゼルバイジャンのここに西ユーラシアの日本学術文化センターの建設こそ今最も重要なことの一つである。

 

ハディドの作品はアジアにも多く存在し、北京の新しい大興国際空港や望京SOHO、広州大劇場などかなりある。また死後にできた作品にも注目が集まっているが、なかでも2018年サウジアラビアに完成したアブドラ国王石油調査・研究センターも是非この目で見てみたい。

 

そう、コロナウイルスによる閉塞状態が解除されたら(本当にいつになるやら)、ソウルの東大門デザイン・プラザから北京、上海、そしてバクーへ、それからサウジ、それにローマのイタリア国立現代美術館へも。興味は尽きないが、「ザハ・ハディド・ワールドツアー」を組みたいものだ。魅力ある建築があれば、何処へでも見に行く。ご参加あれ。(政策研究大学院大学政策研究所シニア・フェロー)

 


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