[フェイス21世紀]:笹目 舞〈美術家〉

2017年07月21日 10:00 カテゴリ:コラム

 

向きあい 混じりあう――

 

 

向き合うも敢えて目を瞑り、出会いの瞬間のイメージを追って顔を描いていく。色鉛筆やクレパスを手探り、手繰るように空をつかみ、まさぐり、こすり、15分も経ったろうか、目を開く。今度はモデルを見つめ、会話を交わしながら新たな紙にその顔を描くのだ。

 

「見ない」ことで解体された顔と「見る」ことで正しく描かれた顔をあわせて掲示し対照することで、人に潜在する別なる個を可視化しようとする作品《いないいないばあ》。似ていないが、似ている。似ているが、似ていない――。自分のようで自分でないそれらの似顔絵を見つめていると、日々の中で自らを見つめる機会のいかに少ないことを気づかされる。

 

こうした対面での即興ドローイングを、笹目はもう10年以上も続けている。大阪芸術大学を卒業後、CMセットデザイナーとして働きながら2002年から人とのコミュニケーションを作品化する今のスタイルで活動を始め、15年には多摩美術大学大学院に進学。画家の高橋幸彦や文化人類学者の中村寛、現代美術家の石田尚志らの指導を受けながら2年間で730人分のドローイングを行った。今日に至ってその数はゆうに1,000を超える。

 

多数の他者と向き合ううちに「人と自分が入り混じった何か」が自分の中に溜まっていく。溜まり溜まって結晶のようになったそれを、吐き出すように描くのが《いないいないばあ》の対となる《異種混淆の世界》だ。《いないいないばあ》とは対照的に、他者ではなく自身と向き合う。自らを閉じて意識の奥底を見据え、動くに任せた身体が白の画面に縦横に線を走らせ、色を織り込む。そうして見たこともない景色が現れるのを求めて、この反復を繰り返すのだという。人は自分を映す鏡と言われるが、畢竟、笹目も人と向き合うことで自らを確かめているのだ。

 

5月の個展では初めて《異種混淆の世界》を会場で制作して新たな世界を開いた。絵画か、パフォーマンスか、はたまた総合芸術か。型にはまらぬ表現は今後どう展開していくのか。期待を胸にその活動を追うとしよう。

(取材:和田圭介)

 

笹目の《いないいないばあ》は、まず目を閉じた状態でモデルの顔を描く

 

扱う素材も手探りで、笹目自身もどのような画面になっているかは分からないが、完成のタイミングには「絵が浮き上がってくる」という

 

そして、新たな紙に今度は相手の顔を見ながら顔を描いていく

 

一人の人物を描いた2つの顔は、見慣れた自分の新たな一面を気づかせてくれるやも

 

個展「異種混淆性の世界」でのライブドローイング

 

人々が見つめるなかでの《異種混淆の世界》の制作には「解放があった」という

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笹目 舞(Mai Sasame)

 

1995年に大阪芸術大学を卒業し、映画やCM等の美術セットを制作する株式会社サンクアールに入社(~2008)。同社在籍時より作品制作を行い、個展を中心に発表を続ける。2015年に多摩美術大学大学院博士前期課程に入学し高橋幸彦、中村寛、石田尚志らに師事。《1/730 のいないいないばあ》を論文とともに発表する。2017年5月東京・銀座のart space kimura ASK?で個展「異種混淆性の世界」を開催。今後は7月22・23日「アジア国際友好展2017」(エコギャラリー新宿)、9月18日~10月21日「Lost and found」展(3331アキバタマビ2F)に出品。

 

【関連リンク】笹目舞 /Mai SASAME

 


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