富井玲子 [現在通信 From NEW YORK] :意味深長な国際ポップ展

2016年04月26日 17:37 カテゴリ:コラム

 

 

グローバルに1960年代美術を検討する試みが進んでいる。ウォーカー・アート・センターで立ち上げ、ダラス美術館に巡回して、現在フィラデルフィア美術館で打止めの展観をしている「インターナショナル・ポップ」展もその一つで、腰のすわったアプローチが評価できる企画だ(5/15まで)。

 

「50年代半ばから60年代初期にかけてロンドンから東京、ニューヨークからブエノスアイレスまで、戦後世界に活躍する若い世代の作家たちのあいだでポップ・アートはまきおこった」と宣言する同展だが、とくに注目したいのは、ローカルとグローバルをうまく組合せる工夫だ。

 

全世界的視野を標榜する展覧会は、ともすると国別展示で相互の〈響きあい〉が見失われるか、相互の関連性を重視しすぎて個々の地域性が見えづらくなる、という問題点がこれまで指摘されてきた。実際には、ローカルとグローバル、どちらの視点を欠いても真に地球規模で考えることはできない。

 

同展では、独自の展開をした英、独、日、ブラジル、アルゼンチンの個別セクションを設け、テーマ別セクションも作って多重的視点を演出。テーマは「イメージは移動する」「新しいリアリズム」「ポップと政治」「愛と絶望」「流通と家庭生活」「市場というメディア」の6つで、従来のポップ研究の枠を拡大し、横断的に作品を紹介して意欲的だ。だから、工藤哲巳がウォーホルと並んだり、田名網敬一のコラージュがエデュアルド・パオロッチと並んだりして愉快な展示となる。「東京ポップ」の総帥格、篠原有司男のイミテーション・アートが本家本元のラウシェンバーグと揃い踏みする快挙もあり、日本人作家の作品選択を担当した池上裕子・神戸大学准教授の研究の冴えが感じられる。

 

ところでフィラデルフィア美術館の広報をめぐる〈事件〉は、美術館の社会性を考える上で重要だ。同館が宣伝のために使った画像が「意味深」(suggestive)として、フェースブックから削除されたのだ。これに対して、同館は担当学芸員のエリカ・バトルが執筆した声明をつけて、くだんの画像を再掲載、毅然とした態度で説明責任を果たした(goo.gl/KD7K8g)。

 

その声明を翻訳すると「《アイスクリーム》はエヴェリン・アクセルが1964年に制作した絵画。アクセルは女性作家でポップ・アートに取り組んだ先駆的存在で、この作品も女性を受身で装飾的なモノとして描くことの多い主流ポップ・アートへの批判として読めるだろう。アクセルの描きたい女性は、能動的で自信があり自分なりの方法で満足できるようにがんばる。美味しいデザートを堂々とエンジョイする《アイスクリーム》の彼女のように。アクセルの喚起的な絵画は芸術の規範への挑戦であり、60年代の性革命の開放的で遊び心あふれる特徴を示している」。

 

この事件は、一般新聞やBBC(goo.gl/h1N4ra)、アートフォーラム(goo.gl/uPQYi9)でも声明を引用して報道された。

 

 

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