[フェイス21世紀] : 髙橋舞子

2014年12月01日 09:51 カテゴリ:コラム

 

追憶の風景
森々と、深々と

 

「涙でできた石を積み」 2011年 112.0cm×194.0cm キャンバスに油彩・テンペラ 佐藤美術館蔵

 

大学1年の夏休み。久しぶりに目に映った故郷・山形の風景に心惹かれた。都会の生活でいつの間にか忘れていた山々が、樹々が、「輝いて見えた」。その時から、風景を描き続けている。

 

髙橋舞子は、1987年山形県生まれ。両親は美術教師で、美術大学への進学も、画家になったのも、「そうなる事を“知っていた”という感覚」だと話す。高校の美術部で本格的に油絵を始め、上京して女子美術大学に入学。在学中より細密な森林風景で注目を集め、同大学院、東京藝術大学の研究生を経て、現在は個展を中心に活動する。

 

夜の木立に、青白く輝く雪が印象的な風景は、故郷への、かつての日々へのノスタルジーであり、同時にその時々の「心」の写し鏡でもある。

 

画面には、時に冷涼で空虚な風が流れ、時に温かな人の営みの灯が現れ、見る者を物語の世界へと誘う。ともすれば独りよがりになってしまうテーマだが、再現模型を作り、綿密に計算した陰影表現や画面構成と、細筆による緻密な描写が、作品の強度を支えている。

 

影響を受けるのは専ら音楽と文学。作品や個展のタイトルは、そこから着想を得ることもある。雪も好きだが、暖かい部屋で布団にくるまるのも好きだ。技法ゆえに制作に時間がかかり、時に怠け心が首をもたげる事もあるが「幸せなことと、楽なことはまた別」だと言う。「私が一番生きがいを感じる幸せな時間は、絵を描いている時です」。

 

今年は、幼い頃の記憶を辿りながら、新たに室内の風景を描き始めた。窓の外にざわめく木々の影、夢うつつの中で見た何者かの姿、先の見えない階段の向こう―。「幼い頃に見た風景は、記憶と想像が入り混じっている。その曖昧さ、不思議さを表現したい」。来春の個展は、この室内風景が中心になるのだろうか。

 

追憶が紡ぐ幻想的な心象世界。髙橋が描く新たな物語を、楽しみに待ちたい。

 

「あの窓の外の気がかり」 2014年 72.5cm×116.5cm キャンバスに油彩

 

「私は思い出した」 2013年 50.0cm×72.5cm キャンバスに油彩・テンペラ 個人蔵

 

「或る午後」 2009年 145.0cm×257.0cm キャンバスに油彩 個人蔵

 

 

xxxx髙橋舞子(Maiko Takahashi)

1987年山形県生まれ。2012年女子美術大学修士課程美術専攻洋画研究領域修了。13年東京藝術大学美術研究科油画技法・材料研究室研究生修了。個展は、11年「吹き寄せる幻影」(相模原市民ギャラリー)、13年「燦然たる夜の夢の帰途」(銀座・SILVER SHELL)、「刻々夢を深くして」(京橋・ギャラリー椿)。14年「あの窓の外の気がかり」(銀座・SILVER SHELL)。出品は、08年第63回山形県総合美術展覧会(山形美術館)、11年佐藤国際文化育英財団第20回奨学生美術展(佐藤美術館)、12年五美術大学連合卒業・修了制作展(国立新美術館)など多数。来春もSILVER SHELLでの新作個展を予定している。

 

(取材・撮影/和田圭介)

 


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