富井玲子 [現在通信 From NEW YORK] : ホイットニー・バイアニュアル

2014年03月29日 16:34 カテゴリ:コラム

 

ホイットニー・バイアニュアル

 

10年前の話になるが、その年のホイットニー・バイアニュアルは「全体に既視感が強く面白くない」ので、無名の新人の仕事を見るほうが「精神衛生によい」と本欄で書いた。

 

その時に紹介したのは荒川医の卒業制作のパフォーマンスだった。その後の彼の躍進ぶりは目覚しく、今年はホイットニー・バイアニュアルに参加している。

 

さて、そのバイアニュアルだが、2016年には美術館がダウンタウンに移動しているので、マジソン街では最後の開催(詳細はwhitney.org/Exhibitions/2014Biennial  5/25まで)。

 

ゾーイ・レナードの大型ピンホールの部屋が一律に注目を集めたのも、表現そのものは新しくはないものの、壁に逆転して投影されるアッパーイーストサイドの街頭風景が一種のノスタルジアを呼んだのではないかとも思われる。

 

ゾーイ・レナード 《マジソン街945番地》 2014年

 

今回は、NY美術界の外部からキュレーターを3人招聘して、それぞれに2、3、4階のフロアを別個に担当させるという新趣向。いわばプチ・バイアニュアルを3つ見るようなもので、シカゴ在住の作家、ミシェル・グラブナーの担当した4階は絵画系作品が多く、また女性作家の数も豊かで、3展のうち展評での評価はもっとも高い。ロサンゼルス在住でブラム&ポーで一昨年個展をしたシオ・クサカの陶器作品も4階だった。(もう一人、スターリング・ルービーという陶彫の作家4階にもいた)。

 

シオ・クサカ 《恐竜》 2013年 (筆者撮影)

 

ただ、それはあくまで相対的な評価であり、『ニューヨーク・マガジン』誌のジェリー・サルツに代表されるように、散漫で既視感がある、というのが全体の評価のようだ。

 

しかし、私には面白かった。物故や古参の作家もふくむ実際の出品作家の平均年齢の高さとは裏腹に、今回は「若い」印象が強い。それは若い作家たちが絵画や彫刻など自己完結したモノに執着せずに、拡散型の作品を追及していて空間の中に息づいているからだろう。しかも一昔前のオブジェなどを撒き散らす重めの拡散ではなく、コンセプトのある拡散で視覚的に軽みが増し、結果「拡散」が生きてくる。

 

その典型が3階担当、スチュアート・コマーの企画だ。元テート・モダン、現MoMAでメディア・アートの主任キュレーター。荒川のハワイをテーマにした作品も3階で、参加型の帽子3点に、クラリッサ・ロドリゲスがキラウェアオニックス塩で作った抽象画にルーズベルト大統領所有のカルチェの勝利時計(http://goo.gl/0V0sML)を加えたインスタレーションだ。

 

プラダから提供されたセーターを着た荒川医とスチュアート・コマー、作品は《ハワイの存在》と題された3人用帽子 (筆者撮影)

 

《ハワイの存在》を荒川医と一緒にかぶった筆者 (藤森愛実撮影)

 

コマーの選択は、いわゆる制作者だけではなく、Semiotext(e)のように現代美術のバックボーンとなるセオリー(理論)を推進した雑誌も出品者に名を連ねる。これに類したアーカイブ系の作品は、今年の大流行で、カルアートで級友の故トニー・グリーンにオマージュをささげてリチャード・ホーキンズとキャサリン・オピーが企画したミニ個展(3階)もその一つだった。

 

(富井玲子)

 

「新美術新聞」2014年4月1日号(第1340号)3面より

 


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