富井玲子 [現在通信 From NEW YORK] : 本家バーゼル

2013年07月27日 16:03 カテゴリ:コラム

 

本家バーゼル  富井玲子

 

川俣正 「ファヴェラ・カフェ」 2013年 筆者撮影

 

アートの将来は、作品をベースとしつつ、市場と美術館(収集)と学術の三位一体で決まる。最近のアートマーケットの活況を見ていると、美術史研究の側から考えても、そういう風に結論せざるを得ない状況がある。この動向を受けて、実学性を重視するヨーロッパの大学・大学院では、キュレーター養成に続いて、美術市場の研究もカリキュラムに取り込まれつつある。スイスのチューリッヒ大学などが一例だ。

 

市場を考えるとして、個々の画廊の活動にくわえて、アートフェアの比重がこれまで以上に増している。NYにはアーモリーショウや昨年ロンドンから進出してきたフリーズもあるが、アートフェアの本場はヨーロッパ。特に、マイアミ、香港にも進出し、今年44回目を迎えるアート・バーゼルはアートフェアの老舗だ。関連映画プログラムで、篠原有司男・乃り子夫妻のドキュメンタリーを試写紹介するために招待されて、今年は念願のバーゼル行きを果たした。

 

300を超える画廊の参加するアート・バーゼルだが、会場前の広場には川俣正の廃材利用のカフェが設置されて憩いの場を提供。ただ作家の意図の埒外だろうが、現在のグローバル化経済で顕著になりつつある貧富の差が、億の単位で作品が動くアートフェアの前で暗示されるという皮肉な効果もあった。

 

メインの会場は二層に分かれていて、二階がプライマリー(新作)中心、一階がセカンダリー(旧作)中心で画廊が出ている。今年は、ヘルツォーク&デムロン設計の見本市会場が隣接して新築されたので、大型インスタレーションを見せる「アンリミテッド」が広大な会場に陣取っている。グローバル市場で買い物するコレクターたちが大型で見世物的な作品を欲しがるという昨今の傾向を考えると、アンリミテッドは、ビエンナーレやトリエンナーレ以上に、現代アートの状況を反映しているとも言えるだろう。何より商業画廊が自前の予算で営業を念頭にリプレゼントする作家の作品を全力投球で打って(売って)くるのだ。しかも6月13日から16日の会期、つまりたった4日間の展示のためにである。

 

カール・アンドレ 「王座」 1978年 筆者撮影

ビデオのプロジェクションから、巨大絵画、そして部屋や環境の演出など多種多様。ビデオ系では、フランソワ・キュルレが映像の主役である自動車の実物もインスタレーションに加えた新作「スピード・リミット」で暗室映写の単調を破っているものの仕掛けじみているところが難点。一方、アルフレッド・ジャーの「沈黙の音」は、映像自体はテキスト主体の簡潔なものながら、アフリカの飢餓をテーマに、報道写真の人道的モラルを考えさせる哀調にみちた秀作だった。

 

 

現代アートの文法が定着したことを実感すると同時に、空間を把握しながらスケール感を十分に表現した作品を一つあげるとするならば、60年代ベテランのカール・アンドレの材木のインスタレーションがダントツ。最近のアートが新しいとしても、本当にラジカルなのか、という問題を示唆している。(富井玲子)

 

「新美術新聞」2013年7月1日号(第1316号)3面より

 


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