〈画廊の本音〉 新生堂 - 畑中昭彦氏

2013年03月05日 18:00 カテゴリ:コラム

 

南青山/ベルリン―原点からの挑戦

 

 

畑中昭彦氏(71)

昨年10月、ベルリンに新スペース「Shinseido TokyoBerlinArtbox 」を開いた。公募「新生展」などから育った祝迫芳郎、佐藤草太、白田誉主也ら馴染みの作品に、オープニングでは福井江太郎氏のライブ・ペインティングも。「各国のフェアに出て状況を見てきたけれど、これからはヨーロッパを目指したい」と代表の畑中昭彦氏はいう。シンガポールなどアジア圏への出店が目立つこの時にドイツへ挑む姿には、静かな反骨心ものぞく。「東京の新生堂をそのまま見せるのです」。

 

千住博氏が年若い頃、東美特別展で個展を企画した。すると、ここは評価の定まった名品を見せるところとの非難があった。また、日本画の若手作家をバーゼルで展示した際は、わざわざ経費をかけてとの声が。「人と違うことが好きなのかな。バーゼルだって、最後に国内で作品が売れるなら、その先を見ないとね。商売はバランス。商人の子どもですから」。

 

千住博「Waterfall」 紙本彩色 175 × 384 cm

 

父は古美術商「畑中商店」を東京の神谷町近くで営んだ。箪笥や火鉢の古道具に始まり、やがて焼物を中心に。慶應義塾大学法学部を出てから、文学部の美術史へ学士入学。卒業後、世話になる彩壷堂(さいこどう)は勢いがあり、60年代半ばから銀座貿易ビルの数フロアを占める規模だった。丸山正武代表は度量が大きく、海外の美術館・画廊を見に行きたいと申出ると、一カ月の研修を許すような人物だった。15年間、主に展覧会企画を担当した。

 

「アトリエMMG」を深く記憶する方は少なくないだろう。オリジナルの版画作品を日本に根付かせるべく、74年に益田祐作氏とふたりで始めたものだった。パリのアトリエ・ムルローとも技術提携し、2007年まで続けた。だが、求められているものは、日本画であれ油彩であれ、その作家の本画の複製なのだと痛感したという。約30年間の挑戦は、09年に宇都宮美術館で企画展として回顧されている。

 

山﨑鈴子「桜時」 紙本彩色 162.1×130.3cm

学生時代、茶道部の師範の住まいがあったのが、現在の南青山の地。縁あって土地を取得し、94年に銀座から移転した。「ノスタルジーです」とも笑う。今年2013年は「新生堂のこの場所へ、多くの皆様に来ていただきたい」と話し、より良い企画の展覧会を目指している。原点を見つめつつ、挑戦する1年となりそうだ。

(袴田智彦)

 

新生堂

【住所】 東京都港区南青山5-4-30☎03-3498-8383

【休廊】 日曜・祝日(展覧会会期以外の土曜は休廊)

【開廊時間】 11:00~18:00

【関連リンク】 新生堂 公式ホームページ

 

「新美術新聞」2013年1月21日号(第1301号)5面より

 

 


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