[寄稿]中島千波とおもちゃシリーズ 画家のひみつ:大平奈緒子

2016年05月26日 13:21 カテゴリ:最新のニュース

 

命を吹き込まれるおもちゃたち

 

 

 

中島千波(1945~)は、いま、画壇の最前線にいる日本画家の一人である。花鳥画や人物画、風景画と画題は幅広く、近年は国内外の独立峰をテーマに雄大な風景画を手がけるなど新たな挑戦を続けている。

 

「おもちゃシリーズ」は、1971年という千波の画業の初期から取り組まれ、彼が生涯描き続けたいと語っているシリーズである。メキシコをはじめとして、ペルーやフランス、ベルギー、インド、日本のおもちゃなど、自身で集めた世界各地のおもちゃをモチーフに描く。窓を背景に、花とともに描かれる素朴なおもちゃたちは、異国情緒が漂い、神秘的で楽しそうな世界をつくりあげている。

 

本展では、おもちゃシリーズの作品約 60 点に加え、本シリーズを制作するために描かれた花のデッサンも同時に展示する。様々な角度から入念に描かれたデッサンは、中島千波の描く世界の秘密を垣間見させてくれることだろう。また、モチーフになったおもちゃたちも展示室内に配し、会場を彩る。

 

千波は作品を制作するとき、おもちゃは実物を見ながら画面に直に描くが、花を描く際には過去のデッサン帳を傍らに置くという。花には季節があるため、デッサンの中にその花の最も美しい時を描き留めておく。そしていざ作品を制作する時に再びデッサンの中から描き出すのである。作品に描かれた花は、どれもが本物の花同様に生き生きとして見える。それは、その画技もさることながら、図鑑や写真から写すのではなく、実際の植物をデッサンして描き取ることを基本とする制作の姿勢によるのだろう。

 

千波は本シリーズを「物語」や「おとぎ話」といった言葉で語る。動かないはずのおもちゃたちが動き、おしゃべりをしている。おもちゃたちは画面に描かれることによって、命を吹き込まれるのである。そこに瑞々しい花が描かれることで、この不思議な世界が実際に存在するかのような印象をわたしたちに与えてくれる。こうして出来上がったおもちゃシリーズの世界は、画家が心から楽しんで描く世界である。   おとぎ話のようなおもちゃの世界を想像して楽しんでいただけたら幸いである。

(渋谷区立松濤美術館学芸員)

  【会期】2016年5月31日(火)~7月10日(日)

【会場】渋谷区立松濤美術館(東京都渋谷区松濤2-14-14)

【TEL】03-3465-9421

【休館】月曜

【開館】10:00~18:00(金曜は20:00まで、入館は閉館30分前まで)

【料金】一般500円 大学生400円 高校生250円 小中学生100円 60歳以上250円

【関連リンク】渋谷区立松濤美術館

 

中島千波特別ギャラリートーク

【日時】6月3日(金)、6月25日(土) 14:00~

【料金】要入館料 ※事前予約不要 ※当日、図録または書籍を購入の方を対象にサイン会を実施  

 

■学芸員によるギャラリートーク

【日時】7月3日(日) 14:00~

【料金】要入館料 ※事前予約不要

 

■中島千波特別トークショー「中島千波とおもちゃシリーズ」

【日時】6月12日(日) 14:00~

【会場】地下2階ホール

【出演】中島千波

【料金】要入館料

【定員】80名 ※事前予約不要 ※当日、図録または書籍を購入の方を対象にサイン会を実施

 

   


関連記事

その他の記事