「春画展」キーパーソン・浦上満氏に聞く―日本初の「春画展」開催の舞台裏 

2015年09月19日 08:00 カテゴリ:最新のニュース

 

9月19日(土)より、東京・目白台の永青文庫で日本初となる全て春画で構成された展覧会「春画展」が開幕する。5月に開催が発表されてから今日に至る約4カ月の間、数多くのメディアに取り上げられ、今美術界で最も注目を浴びている同展。その発起人の一人である浦上蒼穹堂代表・浦上満氏に開催に至った経緯や、日本での春画の受容、また展覧会の見どころなどを聞いた。(取材・文/橋爪勇介)

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■20以上の美術館が拒否した「春画」

 

―まず最初に今回、日本初の「春画展」が開催されることになった経緯についてお聞かせください。

 

浦上大英博物館で「春画展」が2013年から翌14年にかけて約3カ月間開催されましたが、実はそれよりも前から話はありました。2011年の夏に大英博物館からアジア部門で日本セクション長のティモシー・クラーク氏とロンドン大学のアンドリュー・ガーストル教授が私の春画コレクションを調査しに来ました。その時に大英博物館で展覧会をやるときのスポンサーが誰かいないか、そして日本の美術館でどこかやってくれるところはないかという話になったんです。

 

浦上満氏(浦上蒼穹堂にて)

 

しかし開催場所は中々見つからない。結果的にスポンサーだけでも私と淺木さん(編集部注:東京美術倶楽部会長・淺木正勝氏)が個人としてやりますよと。そこから(大英博物館と)強い信頼関係が出来、「日本でも必ずやってほしい」と言われた。それから我々の(開催場所を探す)美術館行脚が始まったんです。程度の差はあれ、20以上の美術館に当たりましたが結局ダメだった。大英としては13年10月のオープニングの時には「日本では●●美術館でやります」と発表したかったみたいでしたけど。

 

美術館がダメなら商業施設に当たろうということで、9割5分決まりというところもありましたが、それもギリギリになってダメになった。

 

―それはなぜでしょうか?

 

浦上「子どもが観られないからだ」と言われました。じゃあ日本では子どもと一緒に観れない展覧会はダメなのかと。そんな時に大英から「ある美術館がやってもいいと言い出した」という話があったのですが、それもダメになった。大英で大きな反響があった展覧会なら、凱旋展として日本で引く手数多になるはずが、そうはならない。そうして大英の展覧会が終わり、ティモシー・クラークが再び来日しとき、「日本展はお二人で立ち上げてほしい。そのためには全面協力します」ということになりました。そこで去年の夏に永青文庫の細川さん(細川護熙氏)と話をして、「うちでやりましょう」となった。本格的に動き出したのは去年の12月です。

 

 

 

―想像以上の紆余曲折があったのですね。

 

浦上そうです。要するにどこの美術館もなぜやらないのか?ということ。記者会見のときに淺木さんも仰っていましたが、基本的には「保身」ですよね。当初話が上がっていた東京国立博物館が止めたことで国公立は皆腰が引けてしまった。何を恐れるのか。それは公立であれば教育委員会、企業がバックにある美術館はイメージダウンを怖がる。マスコミはマスコミで読者の意見を気にしてしまう。全員がそれぞれ仮想の敵を作って恐れている。一言でいえば「自主規制」。これが「春画展」が開催できない最大の理由。大英側もなぜこれが日本で出来ないのか不思議がっていたくらい。明治政府が春画を規制・検閲した歴史が21世紀の今日、いまだに日本人の中に残っている。日本人がいかに“お上”に弱いかということですね。

 

―美術館の公立・私立関係なく難しかった、ということなのですね。

 

浦上大英が春画展をするとなった時、「それは素晴らしいですね」と仰る日本の美術館の方々はたくさんいたんです。でも巡回展は引き受けない。個人的には興味があるのだけれど…(自分の館ではできない)。日本ではそこまで力のある館長がいないということなのかもしれません。私は今度の「春画展」は1つの展覧会の成否ということだけでなく、「日本的なもの」をすごく感じました。誰も責任を取りたくないんですね。

 

―関係者が満場一意でないと開催できないと。

 

浦上そういうことです。会田誠展(編集部注:「会田誠展:天才でごめんなさい」、2012年、森美術館)のときもそうだったけれど、1人でも反対すると萎縮してしまう。

 

―その会田誠展では実際にある団体により抗議文が送付、それに対し美術館側が声明を出すということがありました。今回の展覧会についても同じような反応があると思いますか?

 

浦上5月の記者発表から今まで、日本のマスコミで否定的な論評は全くありません。大英の春画展も唐突に開催されたわけではなく、それ以前に3年半の国家予算による国際春画研究プロジェクトというものがあり―これには日本からも参加していました―その成果として行われた。つまり「学術的な裏付け」があるんです。イギリスでは問題がないどころか、ガーディアンやタイムなどがこぞって四つ星をつけました。(現地のマスコミも)初めは驚いたと思いますよ。でも蓋を開けてみたら素晴らし論調が並んだ。「日本人観が変わった」という意見すらあったくらい。そんな時に、もし日本で開催して検閲やなんかがあれば、この国は世界中の笑いものになります。

 

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