【インタビュー】 淺木正勝氏に聞く 「平山郁夫展―文化財赤十字への道―」と「日本画の伝統と未来へ 星星會展」

2014年04月30日 17:10 カテゴリ:最新のニュース

 

広島県立美術館(広島市中区・越智裕二郎館長) では、広島市内では没後初めてとなる「平山郁夫展―文化財赤十字への道―」(4月8日~6月1日)と現代の日本画界をけん引する4作家—下田義寛、竹内浩一、田渕俊夫、牧進による「日本画の伝統と未来へ 星星會展」(4月17日~5月25日)が同時に開かれる。2つの企画に当初から関わる淺木正勝氏(丸栄堂社長、東京美術倶楽部代表取締役会長)に展覧会の見どころ・意義をお聞きした。

 

文化財保護の足跡・コレクションと平山作品の同時展示が見所

 

―平山先生が亡くなられて5年、没後広島市内では初の回顧展ですが、その見どころは?

 

展覧会について語る淺木正勝氏

淺木氏(以降、淺木と略) 今展は広島県の主催です。丸栄堂は協賛の一角に加わっていますが、実行委員会方式で行われます。たまたま時期が重なりましたが、2階会場の星星會展も同様です。越智館長も言われていますが、平山先生が掲げた『文化財赤十字』構想として実践してきました保護活動が世界的に大きな活動業績として認められ、戦争等で散逸させないように貴重な文化財遺産を美知子夫人と共にコレクションとして収集し、現在までにそれらが1万点を超え、平山郁夫シルクロード美術館で保管、展示されています。

 

世界的レベルでみても中近東文化に関する有数のコレクションで、特にガンダーラ美術の収集では世界一です。そのくらい素晴らしい品々を長い時をかけてご夫妻で集められました。その文化財保護活動の足跡やコレクションを広島で鑑賞できることはきわめて貴重な機会となります。

 

聞くところによりますと、いわゆるシルクロード(絹の道)地域が世界遺産に登録される可能性があるとのことです。中国政府がユネスコに登録を申請することを認めたようです。シルクロードはその歴史もたいへん長きに渡っています、何を中心に見るかということもありますが、もし世界遺産に登録されたとしたなら平山コレクションの価値は増々大きなものになるのではないでしょうか。

 

―それは大きなニュースです。

 

淺木 それだけ質の高いガンダーラ美術の遺産文物をシルクロード美術館が所蔵していることが世界に知られれば、さらに多くの方たちが美術館を訪れるようになります。恐らく玄奘三蔵法師の通った路を平山先生が幾度も通い、たどって描き残した世界と両方をみることが、今度の展覧会の意義というか、見どころでしょう。

 

―平山先生の描く世界の魅力とは。

 

淺木 作家が生前にいくらいい仕事をしていても、亡くなられた場合その成果を紹介し続けない限り世間からは急に忘れられてしまいます。平山先生の場合は常に展覧会を開いてその存在を知ってもらおうと努力してきて全国的にも皆さんに知名度を一層高めました。画業とコレクションも含めて、だからこそ国民的作家になりました。今も展覧会企画の申込みが多くあります。東博で薬師寺の壁画とコレクションを同時に並べて展覧会がありましたが、その時は多くの方々が驚かれた。そして龍谷大学でも作品とコレクション展が開かれて評判となりました。これまではそうした例は少なかったのですが、シルクロードが世界遺産になり来館者が増えることを期待しております。

 

髙山辰男、平山郁夫亡きあと誰が続くのか

 

―星星會展が平山郁夫展と同時開催になりました。

下田義寛「聴春」

 

淺木 全くの同会期ではありませんが。平山先生は星星會の4人の先生方とももちろん相当ご縁はありました。第1回立ち上がりの時はお見え戴いています。2005年の時、私は髙山先生(当時92歳)と平山先生(当時75歳)のお二人に続く作家―芸術性もあり市場でも支持されるスターとして―誰がいるのだろうかと常に考えていました。芸術性がとても深い髙山先生、華やかさと共に大衆を引き付ける平山先生。

 

我々美術商は次の世代のスター作家を育てなければいけません。院展の下田さん、田渕さん、無所属の牧さん、日展にいた竹内さん、私も前から接していてよく知っていましたし、4人は絵に対してしっかりした考えを持ち、姿勢を示していたので日頃から注目していたのです。制作に脂の乗った時期の4人と一緒に、売ることを目的とせず自由にやりたい仕事を発表してもらうことでじっくり制作していただきたく、隔年の企画からの出発しました。

 

竹内浩一《花回る》

竹内浩一「花回る」

同じ考えを持っていた彩鳳堂の本庄さん、そして毎回会場を提供して戴いた髙島屋さんと担当の中澤さん、売り上げを考えなければならない百貨店としてはかなりの負担を伴う大決断だったと思いますがご協力頂きました。構想から10年、以上がまさに一つの「かたまり」として事前のミーティング、事後の反省会を続けてこの5回展までやってこられました。

 

最終締め括りの広島展では髙山先生の作品「牡丹・洛陽の朝」1点を展示します。会の命名者だから4人にしてみれば恩師であり、展覧会の生みの親です。髙山先生の作品があることは星星会展の掉尾を飾るのに相応しいのではないでしょうか、象徴的な存在感を示す形での出品です。会場入ってすぐ正面にさりげなく、全体を見渡せる位置での展示となります。

 

―日本画の未来について。

 

淺木 今回の「星星會展」最初に開かれた北海道立近代美術館で、これまでの成果である大作が一同に展示されているのを見て、正直私は感動しました。東京・名古屋・京都への各巡回会場をみてその思いはより一層深まりました。

 

田渕俊夫《秋爛》

田渕俊夫「秋爛」

昭和初期の作家たちが持っていたであろうパワフルなエネルギッシュさといいますか、伝統から未来を作り出そうとする力、エネルギーを受けとったのです。現代の多くの絵にはそう言う部分が欠けています、小手先で描いたり、デザイン的に走ったりして物足りなく浅い感じがしてなりません。

 

日本画は、やはり限られた面積様式のなかで、限られた筆・絵具に膠という接着剤・媒体を用いて作り上げる、油彩とは違って自由には出来ない決まり事もがあって厄介な仕事なのです。だけどそういった規制のある中で髙山先生も考え、苦闘しつつやってきた。それを伝承しながら、星星會4人の先生方は日本画の可能性、色彩・顔料の美しさ、技術的な高さとかを研究し、現場ではなく日本画の画室で自らの創作の世界に向かっている。これが日本画の魅力であると思っています、このことをもっと海外の人にもアピ-ルしてもいきたい。

 

牧 進「驟雨」

美術商としての持論は、自分たちが信念もって選び抜いた作家は生涯応援していくということが大事です、この4名の作家もそうです。「星星會」の後はどんな企画展の展開を考えているのか、と聞かれます。作家を絞ったグループ展などの考えもあるし、候補の作家もおられますが、まだ固まった考えまではいっていません。

 

◇「平山郁夫展」=4月8日(火)~6月1日(日) 【料金】 一般1100円

◇「星星會展」=4月17日(木)~5月25日(日) 【料金】 一般800円

【会場】 広島県立美術館(広島市中区上幟町2-22) ☎082-221-6245

【開館時間】 9:00~17:00(金曜は20:00まで、入館は閉館30分前まで)

【休館】 会期中無休

【関連リンク】 広島県立美術館

「新美術新聞」2014年4月21日号(第1342号)1・2面より

 

 


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