【展覧会】 3年に一度の国際展開幕!「ヨコハマトリエンナーレ2014」

2014年08月02日 15:28 カテゴリ:最新のニュース

 

 

忘れてしまった大事なことを取り戻す ―いざ、漕ぎ出そう「忘却の海」へ

 

「ヨコハマトリエンナーレ2014」が8月1日に開幕した。横浜のみなとみらい地区をはじめとする臨海部施設や屋外広場を会場に、3年に1度開催されてきた現代アートの国際展だ。2001年より開催され、文化芸術の力を活かし、街に新たな価値を創出することを目指す横浜市の芸術創造都市戦略のリーディングプロジェクトとして定着したが、さらに今年は、日中韓3か国で開催している「東アジア文化都市2014横浜」の特別事業にも位置づけられている。

 

アーティスティック・ディレクターの森村泰昌氏

今回は、アーティスティック・ディレクターに美術家の森村泰昌氏を迎え、レイ・ブラッドベリのSF小説「華氏451度」に由来する「華氏451の芸術:世界の中心には忘却の海がある」をテーマとする。世界各国より65組、79名のアーティストが参加し、総展示作品数は400点以上。横浜美術館と新港ぴあ(新港ふ頭展示施設)をメイン会場に、市内5か所の創造界隈拠点と連携や各地での関連事業など、横浜の街全体がアートで彩られる3か月間となる。

 

開幕前日の7月31日には第5回記者会見および報道・一般内覧会が行われ、会見には横浜トリエンナーレ組織委員会委員長の逢坂恵理子・横浜美術館館長と森村泰昌氏、出品作家であるヴィム・デルボア、ギムホンソック、大竹伸朗、毛利悠子の各氏が登壇した。

 

森村氏は「非常に素晴らしい作品、非常に素晴らしい作家が横浜に集まってくれました」と感謝を述べ、「見えないもの、見てはならないとされるもの、語りえぬもの、語ってはならないとされるもの。また、大人になるにつれて忘れてしまった幼い頃の空想や妄想など、私たちが置き去りにした、しかし本当は持ち続けるべきであった大切なものを取り戻す旅を目指した。2つの序章と11のエピソードから なる忘却巡りの旅。お越しいただいた皆様お一人お一人が、展示を見終わった後、私たちにとって、あるいは私たちが生きる現代にとって、大事な忘れものとは何なんだろうと改めて問いかけてみる。その手がかりとなるようなトリエンナーレになればと願っております」と語った。

 

会見後には、美術館1階のグランドギャラリーに設置された巨大な「芸術のためのゴミ箱」=マイケル・ランディ「アート・ビン」に、森村氏はじめ出品作家らが自らの作品を投棄するパフォーマンスを行った。今後は、過去のトリエンナーレ出品作家など多くのアーティストが作品投棄を行うほか、一般からの参加も募集している(アート・ビン[芸術のゴミ箱]にあなたの作品を捨ててみませんか?)。

 

今展のテーマを象徴するマイケル・ランディの参加型作品「アート・ビン」。多くの来場者と取材陣が見守る中で最初の投棄を行った森村氏は3人がかりで巨大な作品を投棄し、驚きの声と大きな拍手が会場から沸き起こった。

 

失敗作や何かの理由で破壊されてしまった作品は、最初から世の中には存在していなかったかのように美術史上から忘れられていく。マイケル・ランディの 「アート・ビン」は、この「忘れられた美術史」をアート・ビン=芸術のゴミ箱、つまり「忘却の容器」として提案する試み。会期を通じて満たされていく「芸術のためのゴミ箱」は、私たちに何を問いかけるだろうか。

 

第1章「沈黙とささやきに耳をかたむける」に展示された、木村浩のペインティング「言葉」(4枚組、1983年)。同章にはその他、カジミール・マレーヴィチやジョン・ケージ、マルセル・ブロータース、フェリックス・ゴンザレス=トレスらの作品が並ぶ。

 

巨大な砲弾を十字架が囲む象徴的な巨大彫刻「ビッグ・ダブル・クロス」(1987-89)はエドワード&ナンシー・キーンホルツによるもの(第3 章「華氏451はいかに芸術にあらわれたか」)。「ダブル・クロス」とは裏切りを意味し、作家は「宗教の名を借りた戦争は、大きな裏切りである」と語っている。

 

「ビッグ・ダブル・クロス」正面の祭壇には、今展のために制作された”世界でたった1冊の本”「Moe Nai Ko To BA」。本書には「忘却」というテーマに関わる詩や戯曲、写真や素描などが収録されており、会期中は観客が自由に閲覧できるほか、リーディング・パフォー マンスが不定期で開催される(写真)。会期終了後「消滅パフォーマンス」によって廃棄される「忘却の本」、ここでしか読むことは出来ない。

 

もうひとつのメイン会場である新港ぴあでは、やなぎみわ「演劇公演『日輪の翼』のための移動舞台車」(2014)や大竹伸朗の新作「網膜屋/記憶濾過小屋」 など大型の作品をはじめ、メルヴィン・モティ、アナ・メンディエータらの映像作品を展示。また、9月6日に開幕する「第5回福岡アジア美術トリエンナーレ2014」との連携事業として、過去のFT出品作家らの作品も紹介されている。

 

横浜美術館と新港ぴあ、創造界隈拠点連携会場間は、会場間無料バスが運行されている。その他にもみなとみらいエリア、関内エリアなど約40か所にサイクルポート(貸出返却拠点)がある「ヨコハマコミュニティサイクル baybike(ベイバイク)」、ワンウェイ型カーシェアリング「チョイモビ」など様々な移動手段があるので、上手く活用してほしい。

 

 「美術というのは一部の専門家だけの専有物ではない。もっと幅広い多くの人々に開けているべき。上質な美術作品をより多くの人に、特に次世代を担う子どもたちに観てほしい」と語る森村氏が提案した「ひらがなカタログ」。森村氏のテキストで、今展のコンセプトと作品紹介がすべて「ひらがな」で著されている(1,800円)。また、森村氏自身が作品解説を行う音声ガイドや各種パブリック・プログラム、子どもや市民参加によるプロジェクトなど、ヨコハマトリエンナーレをより知るための、より楽しむための様々な仕組みが用意されている。

 

 

これまでと比べると、今回のヨコハマトリエンナーレ2014はそのテーマもあって難解のようにも思われる。実際、森村氏も「本格的に良い美術というものは何なのかというものを、この横浜から発信したいという思いを強く持ってきた。単なるお祭り騒ぎで終わってしまってはもったいない、いわゆるポピュリズムに陥らないように細心の注意を払った」と述べており、ただ観るのではなく、能動的に考えることを促す作品が多いのは確かだ。しかし、いかにその難解さを克服し、理解しようと手段を講じるのは、美術の本来的な楽しみ方のひとつであるはずだ。そして、その手助けとなる仕組みは、今展では前述のように既に用意されている。そう考えるならば、今回のヨコハマトリエンナーレ2014ほど鑑賞者に寄り添った展覧会は珍しいと言えるのではないだろうか。美術史上に名を残す巨匠から現代の新鋭作家まで、多種多様な美術作品を通じて「忘却の海」からあなたが掴み取るものはいったい何であろう。ぜひ足を運んで確かめてほしい。

 

 

[ ヨコハマトリエンナーレ2014「華氏451の芸術:世界の中心には忘却の海がある」 ]

【会期】 2014年8月1日(金)~11月3日(月・祝) [89日間]

【会場】 横浜美術館(横浜市西区みなとみらい3-4-1)☎045―663―7232 / 新港ピア(新港ふ頭展示施設)(横浜市中区新港2-5) ※アクセス

【休場】 第1・3木曜日

【開場時間】 10:00~18:00

※ 8月9日(土)、9月13日(土)、10月11日(土)、11月1日(土)は20:00まで

【料金】

〈連携セット券〉 一般2,400円 大学・専門学校生1,800円 高校生1,400円

※ヨコハマトリエンナーレ2014と各連携会場のフリーパス(会期中有効)

〈単体券〉 一般1,800円 大学・専門学校生1,200円 高校生800円

 

【関連リンク】 ヨコハマトリエンナーレ2014

 


関連記事

その他の記事