【浜松市秋野不矩美術館】入江一子展 シルクロード色彩自在

2015年10月06日 10:14 カテゴリ:最新の展覧会情報

 

 

「四姑娘山の青いケシ」1992年 181.8×259.0cm 医療法人財団立川中央病院蔵

「四姑娘山の青いケシ」1992年 181.8×259.0cm 医療法人財団立川中央病院蔵

 

 

讃美と礼節の赤き光―入江一子のシルクロード

南嶌宏(女子美術大学教授)

 

入江一子は今年99歳を迎えた。しかし、私たちが慶賀すべきはその長寿だけでなく、感謝と礼節を讃える、生への敬虔なる覚悟の筆先をして、画家になりたいと念じた先の何者かとの約束を、80年間守り通してきたその姿にあるというべきだろう。

 

入江は1916年(大正5年)、朝鮮の大邱に生まれ育ち、小学校時代から毎日必ず一枚絵を描く少女だったという。「女子美術専門学校」(現在の女子美術大学)を目指し、帰国とともに入学。在学中代理でモデルを務めた林武との運命的な出会いによって、芸術に人生を捧げる覚悟を友として生きることの、厳しさと喜びをたたき込まれることになる。

 

その初期は北は北海道から南は九州指宿、そして、やがては台湾にまで石仏を探し歩き、民衆の祈りを受け止め、その風土に息づく美を、林の言う絶対の構図の中に描き、また独立美術協会への精力的な発表とともに、三岸節子、佐伯米子らとともに女流画家協会を立ち上げ、女性画家の芸術的自立を実現させようとするなど、戦争を挟む不穏な時間の中の、生き得る時間のすべてを絵を描くことに捧げ続けた。

 

 

「バーミヤン回想」1977年 182.0×227.6cm 山口県立美術館蔵

「バーミヤン回想」1977年 182.0×227.6cm 山口県立美術館蔵

 

 

69年(昭和44年)、入江は初めてシルクロードを訪れ、大陸のオーラともいうべき神秘の光に打たれることになる。それは若き日の女子美卒業後に、中国チチハルで実現した個展の際に震えるように見た、嫩江(ノンコウ)という川が神の光のような、真っ赤に夕陽に燃え上がる光景を思い出させ、以後、入江は憑かれたようにシルクロードという光の国の旅人となっていく。

 

青い葡萄を描くだけのために気温45度を超える灼熱の道を歩き、またあるときは標高4500メートルのチベットへ、20時間馬に乗って青いケシを描きにいくというように、入江は全身全霊でその光に包まれる宇宙のすべてを受けとめながら、そのかけがえのない生の実感を描き続けてきた。

 

大地の息遣い、風の歌、バザールの喧騒と人間の匂い。そしてそれらをひとつの崇高なる生へとつなぎとめる赤き光。入江一子は絵を描くという、深い感謝にも似た礼節を持って、そうした霊的ともいえる宇宙の現象を受け止めてきたにちがいない。

 

今回の個展に併せ、インドを描き続けた秋野不矩の作品も特別展示されるという。同時代を生きてきた二人の女性画家の再会の場にあって、私たちは生そのものの本質的な歓喜の光の意味を、そして、シルクロードが絵を描き続けることの、長く深い精神的な道の謂いであることを知ることになるだろう。

 

 

「カシュガルの昼下がり」1984年 112.0×145.5cm 女子美術大学美術館蔵

「カシュガルの昼下がり」1984年 112.0×145.5cm 女子美術大学美術館蔵

 

【会期】 2015年10月10日(土)~11月15日(日)

【会場】 浜松市秋野不矩美術館(静岡県浜松市天竜区二俣町二俣130)

【TEL】053-922-0315

【休館】 10月13日(火)・19日(月)、11月4日(水)・9日(月)

【開館】 9:30~17:00

【料金】 一般800円 高校生500円 小・中学生300円 70歳以上及び障害者手帳所持者は半額

【関連リンク】 浜松市秋野不矩美術館 入江一子シルクロード記念館

 

「新美術新聞」2015年10月11日号(第1389号)1面より

 

 


関連記事

その他の記事