[フェイス21世紀]:宗像 利訓〈陶芸家〉

2023年09月14日 16:21 カテゴリ:コラム

 

 翠彩るは 会津の景

 

日本橋三越本店での個展「宗像利訓 陶展―翠彩の情景―」会場にて(7月10日撮影)

日本橋三越本店での個展「宗像利訓 陶展―翠彩の情景―」会場にて(7月10日撮影)

 

 

やわらかな釉調の奥から溢れ出る、凛とした佇まい――
茶碗、花器、ぐい呑み、どれをとっても宗像利訓の作からは、目と心を惹きつける柔和な魅力がにじみ出ている。

 

 

《翠彩掛分鶴首》

《翠彩掛分鶴首》

1719年から続く会津の名窯・宗像窯八代当主利浩の長男として生を享けた宗像利訓にとって、伝統はあまりにも身近なものだった。
周囲の雰囲気は元より、ゆくゆくは家業を受け継ぐのだろうという予感は幼少より心の片隅確かに感じていた。

 

「葛藤がなかったわけではありません。漠然とですが、地元を飛び出して海外で仕事をしたいという気持ちもありました」

 

それでも高校を卒業する頃には生涯の仕事と心に決めた。東京と京都二つの学校を卒業後本格的に弟子入り。祖父からは「努力することが大事だ」と繰り返され、心から焼物を愛し誇りを持って制作に打ち込む父の姿からはこの仕事に生涯をかけて取り組む姿勢を学んだ。

 

 

転機は突然。

甚大な被害を齎した東日本大震災。
沿岸部ほどではなかったものの日常は失われ、伝統の登り窯も壊れた。

 

 

「精神的疲弊を癒してくれたのは地元の自然でした。自分も作品で誰かを癒すことができたらと、会津の自然豊かな情景を作品で模索していたとき、緑のグラデーションが心に響いたんです。」

 

 

左上《銀彩天目茶碗》 左下《翠彩掛分肩衝花瓶》 右 蹴轆轤による作陶風景

左上《銀彩天目茶碗》
左下《翠彩掛分肩衝花瓶》
右 蹴轆轤による作陶風景

 

 

宗像窯伝統の緑釉を改良した翠彩(すいさい)釉は、美しいグラデーションによって冬降り積もる淡雪から、春芽吹きが始まり、やがて新緑に染まる会津の自然の情景を表現。
手探りながら約10年、精度を追求し続け現在の景色がある。

 

「自然への畏敬の念を忘れず、これからも当たり前の景色、日常にある自然の恩恵を作品にできれば」と笑う。
永い時のなかで、人や文化、美意識すらも、その土地や風土によって育まれてきたということを傍証する健やかな笑顔だった。

 

(取材:坂場和仁)

 

左《深翠香炉》 右《翠彩天目茶碗》

左《深翠香炉》
右《翠彩天目茶碗》

 

 

2022年、ニューヨークで開催されたArtexpo New Yorkでの個展風景

2022年、ニューヨークで開催されたArtexpo New Yorkでの個展風景

 

 

 

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宗像 利訓(Munakata Toshinori

 

1985年福島県会津美里町に宗像窯八代利浩の長男として生まれる。2007年京都伝統工芸専門学校(現京都伝統工芸大学校)卒業。14年ホテル椿山荘東京にて初個展。18年第2回中国陶磁茶器コンテストにて《銀彩天目茶碗》銀賞受賞(中国・景徳鎮)。ニューヨーク、パリ、杭州(中国)など各国にて作品発表多数。2023年8月在シンガポール日本国大使館にて作品発表予定。
 

 


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