[フェイス21世紀]:三田村 有芳〈漆芸作家〉

2020年04月01日 04:01 カテゴリ:コラム

この道に両足をつけて

 

アトリエにて(2月18日撮影)

アトリエにて(2月18日撮影)

 

「覚えてはいないのですが、産まれてすぐにウルシを食べさせられたそうです」

 

朗らかに言葉をつむぐ気鋭の漆芸作家・三田村有芳の半生に耳を傾けていると、孟子の為母が三度住居を移した故事・孟母三遷が頭を過った。幼児教育には環境が大切、との教えである。

 

江戸蒔絵赤塚派10代目漆芸作家・三田村有純のもと、四人兄弟の次男として生を享けた有芳の世界では、物心つく前から漆が身近なものだった。中国・明代の研究書『本草鋼目』に薬として紹介されている漆ではあるが、産まれてすぐの息子に漆の耐性をつけたいという親心はむべなるかな。藝大で教鞭を執りながら制作する父は多忙を極め、作品の観方は母から学んだ。どういうものが美しいのか、作品を前に話し合う。父の出品する現代工芸美術展と日展は毎年家族総出で観覧に行き、必ず好きなポストカードを1枚買ってもらった。

 

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「日展は好きな作品が多かったです。こども心に、いつか自分も出品したいという想いがありました」

 

高校の卒業式を待たず、中国へと語学留学。すぐに現地で迎えた18歳の誕生日、父に目の前で帰りのチケットを破かれた瞬間から、15年近く中国にて美術研究、制作を続けてきた。海外に身を置き、多様な文化、価値に触れることで改めて日本を見つめることができたという。

 

昨年、幼時より親しんできた日展へ初出品、初入選。人類にとって最も身近な果実・リンゴの持つ危うさと生命力を表現した作品が高く評価される。学業と研究に明け暮れた前奏期間は終わり、これからが本奏。35歳の新人は、表現者として歩む覚悟を固めた。

 

「日展は最後まで出し続けます。どんなに落ちても、それが一度出した者の使命ですから」

 

堅実に、一歩ずつ、作品を出品し続けながら、父のように美術を通した国際交流にも力を尽くしたい。鉄杵を磨くがごとく、有芳の確かなる歩みは続いてゆく。

(取材:坂場和仁)

 

《生命の果実》62×30×34cm 漆

《生命の果実》62×30×34cm 漆


 
 

 

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三田村 有芳(Mitamura Ariyoshi

 

1985年東京都生まれ。2003年中国北京清華大学美術学院漢語研修班に留学、翌年9月中国北京清華大学美術学院金属工芸系入学。15年同大学院後期課程芸術史論系卒業。芸術学博士。14年~17年中国北京工業大学美術学院外部教諭として勤務。15年~17年中国清華大学美術学院研究員。(陶胎漆器による天目茶碗風漆碗の制作研究、日中韓国際展の企画運営)その他東アジア非物質文化遺産保護シンポジウム、講義、講演多数。現在㈱藝祥代表取締役社長、19年より中国福建省闽江学院外部講師。発表論文、日中における作品発表、受賞多数。19年改組新第6回日展初出品初入選。

 


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