[通信アジア]ギャラリー・ドゥ・カスガ&中国の話題から:南條史生

2021年02月19日 17:00 カテゴリ:コラム

 

「素材―その形と心」展示風景 Photo:木奥恵三

「素材―その形と心」展示風景 Photo:木奥恵三

 

昨年11月5日から12月20日にかけてギャラリー・ドゥ・カスガで素材をテーマに展覧会を開催した。タイトルは「素材︱その形と心(The Material ︱ Its Form and Spirit)」というものだが、これはギャラリーオーナーの春日秀之氏が素材の開発に関わるエンジニア、工学博士でもあり、普段あまりスポットライトの当たらない素材をテーマに展覧会をやれないかという依頼があったのがきっかけである。そこで私は、現代美術の小作品を、それぞれ特徴のある素材ごとに選択し、それを展示した。その素材はガラス、紙、木、ナフタリン、鉄、テクノロジーなどを使った彫刻や平面作品である。

 

シンガポールのジェーン・リーは絵具を彫刻のレベルまで練り上げて平面と彫刻の間に立つ作品を展示した。宮永愛子はナフタリンを用いて作られた蝶を展示し、消え去る作品の儚さを見せた。中国のジャンワンは焼きしめたステンレスの黒光りする人体像を展示。また落合陽一は、磁力で宙に浮かび回転する金属の彫刻を展示した。森万里子の円形彫刻に使われた素材は永遠に白く汚れず、退色しないブランビジュという素材で通常、電子部品の生産に使う工業素材である。

 

現代美術の展覧会を語るときに、そのメッセージから共通性を探り、グループ展を構成することが王道だと思われているが、展覧会のコンセプトは、もっと多様であっていいのではないかとも思う。視点がかわると、意味が変わり、新しいヴィジョンが生まれる。そこにはアートとは何かという根本的な問いかけが宿る。

 

さて、最近聞いた中国の美術館の話はなかなか面白い。武漢の郊外の麿山(村)の茶畑の中に展開する美術館だ(2018年開館)。この美術館の第一号館は鉄の階段とその上にある小部屋だ。そこに上がって、万華鏡のような仕掛けの窓の外を覗くと、外の杉林がハニコム状に見える。これが美術館か、これが作品かと、驚愕。2号館、3号館はかなり立派な建物だが作品は杉の木を使っている。解説を読むと、これらの建物は豚小屋だったと書いてある。また、さらに湖の近くまで行くと、杉の木立の間に湖水が入り込み、石上純也の作ったビオトープの水庭にそっくりの景色である。中国が各地に美術館を建て始めたのが2000年をすぎてからのことだったが、それから20年、こうした自然の野に建つ、SDGsに合致し、哲学的とさえ言えるユニークな美術館も登場するようになった。

 

一方で、ニューヨークの演劇界で始まったイマーシブ(没入)型演劇の動きも中国はいち早く取り入れて、各地で壮大なショー/演劇が実現している。一つ例に挙げると、武漢の「知音号」では、大型の客船の何層にもそびえたバルコニー上で100人以上の俳優が、そぞろ歩くところから始まる。観客が乗船すると、各客室、各コーナーでドラマが進行し、観客はそれを自分の自由意志で見て歩くという趣向である。そしていつの間にか船自体は岸を離れて長江の水上を航行している。まさにニューヨークで始まったスリープノーモアを、客船を会場にするという形で新しい演劇体験に発展させた事例だろう。

 

今、時代が変わりつつある。古い価値観に固執せず、新しい事を試して前に進む気概が必要なのではないだろうか。

 


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