[フェイス21世紀]:御手洗 真理 〈陶芸家〉

2018年11月12日 10:00 カテゴリ:コラム

 

――たおやかに羽は舞う

 

ホテルニューオータニ東京内「現代陶芸 寛土里」にて(2018年10月14日)

 

白を基調に優美な羽が連なる生命感をたたえたフォルムは、御手洗真理が一貫して追求する陶の表現である。

 

大気をはらむ翼のような丸みを帯びた造形に、なめらかな釉化粧が生む繊細な色合いや肌、口縁の厚みなど細部に至る丁寧な仕事からは、多様化する現代陶芸のなかにあって、あくまでも人の手で使われるものとしての美しさを求める姿勢が見てとれる。

 

《開翼》 2016年 w34×H61×D30cm

初めて陶芸に触れたのは東京藝術大学工芸科の学部2年生のとき、専攻を決めるための実材実習だった。実材実習では6つの専攻から3つを選んで学ぶが、御手洗は「彫金」「鋳金」「陶芸」を選ぶ。もとはジュエリーなどを制作する彫金を志望していた。しかし、焼成によって様々な変化を見せる予測のつかない面白さに強く惹かれ、一転、陶芸の道に進むと決めた。

 

意欲をもって進んだ陶芸専攻。ところが「まっさきに後悔した」と振り返る。島田文雄、豊福誠両教授のもと学生はまず轆轤の扱いを身につけるが、御手洗は力が足りず、轆轤でひくための土を練ることができなかったのだ。「轆轤の扱い以前の問題。やってしまったと思いました」。

 

もう時間をかけるしかなかった。連日朝から晩まで工房に詰め、湯呑を数百、徳利を数十、膨大な数の課題に必死で取り組んだ。次第に土の特性や力の入れどころをつかみ、「体格が変わったと言われるくらい筋力もついた」と笑う。

 

造形性とともに手ざわりや使い心地を求める姿勢は、この時代に培われたものだ。そして「羽」との出会いもまた学生時代のことであった。卒業制作で表面の起伏に合わせて色が変わる釉薬を自作し、それを最大限に生かす造形として羽というモチーフに行きついた。以来、今日に至るまで空を舞う鳥の美しさを自らの陶に表し続ける。

 

日本橋三越や寛土里、柿傳ギャラリーなど格式のある場で発表を重ねるが「完璧と思えたことはない」と言う。「けれど、それで良いのだと思います。完璧なものではなく、今より少しでも良い作品を。そう考えながらつくっていきたい」。

 

《soaring》 2018年制作 W43×H23×D20cm

 

《快翔》 2017年 W67×H45×D28cm

 

若い陶芸作家を育てるため、発表の場として1974年に現代陶芸のコレクターの菊池智(1923-2016)がオープンした「寛土里」。店内に掲げられた看板は奥村土牛の揮毫によるもの。

 

シンプルな内装に御手洗、大谷の小品を中心とした作品が並ぶ。ホテルニューオータニ東京のロビー階、海外からの宿泊客も多く店を訪れるという。

 

大作とともに小品も御手洗作品の魅力。ふくよかなフォルムに清澄な白。つやのあるもの、マットなもの、それぞれ多様な肌に釉へのこだわりも感じさせる。

 

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御手洗 真理 (Mari Mitarai)

 

1985年千葉県生まれ。2010年東京藝術大学美術学部工芸科卒業。12年東京藝術大学大学院美術研究科修士課程工芸専攻修了。10年サロン・ド・プランタン賞、「藝大アートプラザ賞」準大賞、「現在形の陶芸萩大賞展2010」入選。11年「第21回日本陶芸展」入選、12年台東区長奨励賞。13年「第5回菊池ビエンナーレ」入選。これまで14年と17年に日本橋三越本店で個展。16年に東京・新宿の柿傳ギャラリーで「冨川秋子×御手洗真理二人展」、18年10月に東京・赤坂の現代陶芸 寛土里で「大谷祐里枝・御手洗真理展」開催。

 


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