[フェイス21世紀]:松崎 森平〈漆芸家〉

2016年01月25日 10:00 カテゴリ:コラム

 

漆への思い 理想の工芸を求めて

 

 

2015年11月、初の個展を日本橋三越で開催し、蒔絵や螺鈿を駆使した飾箱、小箪笥、角皿、酒器など華やかな作品の数々を出品した。木地作りから装飾まで、全ての工程を自ら手掛けるからこその幅広い表現。主な活動の場とする日本伝統工芸展では飾箱を中心に発表するが、「最初の個展だからこそ、色々な表現を多くの方に見て欲しかった」と語る。

 

初めて漆を扱ったのは、東京藝術大学の工芸科2年の時。専攻を決めるための選択授業で漆の椀を制作し、母に贈った。喜んでくれた母の姿に、人に使ってもらえる作品が作りたいと漆芸の道に進むことを決めたという。漆芸専攻では漆を用いた造形作品を作ろうとする学生が多い中、あくまでも「用の美」にこだわり、伝統的な技法、特に螺鈿に心惹かれた。「これだ、と思いました。装飾性と用途性を融合させることで、自分独自の表現が出来るのではないかと思ったんです」。自らが目にした風景や色彩を装飾として巧みに表現し、2007年に日本伝統工芸展に初入選。以降も受賞を重ね、着々と評価を高めてきた。

 

色貝飾短冊箱「照葉」 25×11×8cm

 

現在は藝大の漆芸研究室で非常勤講師を務める。「指導する立場ではありますが、生徒に気付かされることも多いです。この研究室で先生や先輩方から教わったこと、得たものをしっかりと伝えていきたいと考えています」。また、日本文化財漆協会にも所属し、岩手の生産地を年に数回訪ね、植栽と保育管理に携わっている。「漆の木は育てるのに本当に手間がかかり、10年以上かけて育てても採れる樹液はほんの少しです。そんな貴重な漆を使わせてもらっている。そう考えると、どの工程においても手を抜くことは出来ません」。知れば知るほど奥が深い漆の世界。その伝統を守りたいという気持ちを日に日に強くしているようだ。

 

研究室の工房で、うっすらと下地が施された制作途中の皿を前に、その作品をどのように仕上げるかを話す姿は本当に楽しげである。技を知り、素材を知り、誰かの人生において特別なものとなる作品を制作したい―。そのような真摯な思いで作られた作品は、きっと美しいに違いない。そして、その思いこそが「伝統」をつくっていくこともまた、違いないだろうと思えるのだ。
 

(取材・撮影:和田圭介)

 

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松崎 森平 (Shinpei Matsuzaki)

 

1981年東京都生まれ。高校2年のときに美術大学を志望し、一浪して東京藝術大学美術学部工芸科に入学。2年次の選択授業で「染織」「鍛金」「漆芸」の実習制作を行い漆芸専攻に進む。2005年同大学卒業。07年同大学院修了。桐箪笥工房での勤務を経て、09年より同大学漆芸研究室教育研究助手。12年より同研究室非常勤講師。日本伝統工芸展に07年より出品するほか、国内外の漆芸展に出品を重ね、評価を受ける。現在、日本工芸会正会員、日本文化財漆協会理事。

 

【主な出品予定】
「第27回 日本文化財 漆協会会員漆芸展 『10×10の世界』」1月27日(水)~2月2日(火):日本橋三越本店 本館6階 美術特選画廊

 

 


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