[フェイス21世紀] : 田中武さん

2012年12月17日 13:21 カテゴリ:コラム

 

人間の欲望に潜む闇 美しく光を照らす

 

個展会場にて(2012年10月5日、日本橋髙島屋)

インパクトの大きい、初個展となった。先日、日本橋髙島屋で開催された田中武展のことだ。

メインとなったのは十六羅漢図になぞらえた《十六恥漢図》シリーズ。テーマは“人間の欲望”だ。「欲望は生きることへの執念の表れ。羅漢のような悟りの境地を描くのは難しいが、人間の欲や煩悩のあり様なら描くことができると思った」―シリーズの出発点をそう振り返る。これまでに描いてきたのは飲食や美容に耽溺する現代女性の姿。女性の手で印相を結び、狩野派の粉本から引用した草花を配する。日本美術の伝統的な表現をちりばめ、女性が秘める欲望の闇を照らし出す。

 

元々油絵を描いていた田中は、九州産業大学2年時のコース分けに際し「より良い油絵を描くために日本画の技法を学ぶことにした」という。「そもそも、なぜ日本画と洋画というジャンル分けがなされているのか―そこから疑問を持ち始めたんです」。次第に日本美術に関する知識と探究心を深めていき、博士課程では円山応挙の大乗寺障壁画を研究。現在は西洋絵画の描法を下地に、日本美術の様式を引用しながら、等身大の日常を表現する。

 

巧みな描写力により完成度の高い濃密な画面を創り出す。同時に、画面上の余白や未完成なものから生まれる美も大切にする。それは田中が学生時代、印象派、特にドガが好きだったと話すところにも表れているかもしれない。「既に美しいと価値づけされたものではなく、これまで表現になりにくいとされてきたものを描いていきたい。未完なものほど、観る人が感情移入できる余地があると思っています」。人間の欲望をさらけ出す表現の核心にあるのは、どこか不完全でもたくましく生きる人間へのあたたかな眼差し。その根底にある美意識が、創作の原動力となる。シリーズは現在5作目。数年中に完成を目指している。(取材/松﨑裕子)

 

 

田中武さんプロフィール:

1982年福岡県北九州市生まれ。2010年九州産業大学大学院博士後期課程芸術研究科造形表現専攻修了。2008年「第8回佐藤太清賞公募美術展」特選・福知山市長賞、2010年「ART AWARD NEXT # 1」審査員賞・青年会賞。2011年「第5回トリエンナーレ豊橋 星野眞吾賞展」大賞(星野眞吾賞)、「第46回日春展」奨励賞など。2012年9月19日~10月8日、髙島屋日本橋店美術画廊X にて初個展「田中武―隠/暗―」を開催した。

公式サイトはこちら

 

新美術新聞2012年11月1日号(第1295号)5面より

 


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