[通信アジア] 台湾視察I 躍進する文化創造産業園区をみる:南條史生

2014年05月28日 09:30 カテゴリ:エッセイ

 

台湾視察I 躍進する文化創造産業園区をみる

南條史生(森美術館館長)

 

このほど台湾駐日経済文化代表処から台湾の文化事情視察に招待された。98年に台北ビエンナーレ第一回目を組織したこともあるので、知己も多く、今更視察もないだろうという声も聞こえそうなのだが、実際には出張しても、用事を済ませてトンボ帰りという旅行が続いていた。そこで、この機会に通常なかなか出来ない旅をしてみようと,応じることにした。

 

花蓮の文化創造産業園区の古い建築物群

花蓮の文化創造産業園区の古い建築物群

 

まず台湾の東部の様子を見てみたいと考えた。代表的な町は花蓮と台東があり、どうも台東が面白そうなのだが、結局、日本から台北に行く飛行機の乗り換えがスムーズな花連にだけ行くことにした。花連は大理石の産地として有名だ。90年代に二回ほど、花連の彫刻シンポジウムに呼ばれたことがある。また博多リバレインにメイ・デェンイーのパブリックアートを作るときに花連の大理石を指定して製作したことがある。

 

今回行ってみると、市内には彫刻の美術館が出来ていて、そこには、花連の歴代の彫刻家の作品があるだけでなく、まさに現代石彫とデザインの恊働と呼べるような壮大なインスタレーションも展示してあった。旧市街には、かつて日本が建設した酒の工場跡があるが,ここは数年前に文化創造産業園区として開発されており、中には街の地元の創造産品美術館、デザイン的に優れたショッピング・モール、古い建物を利用した多数のしゃれたレストラン、カフェなどがユニークな市街地を形成している。また一画には、日本人のアーティスト〔田村映二〕の美術館、綺麗に修復されて残っている10棟近い日本家屋が歴史遺産として展示されていた。

 

こうした文化創造産業の開発は、実は台北にも二つある。一つが華山1914文創発展地区。ここもかつて日本が作った酒工場だ。知り合いがこの中にファブ・カフェをオープンしたので、何度か訪れたことがあるのだが、他にデザインショップ、本屋、多数の展覧会場、映画館、ショップ、レストランなどからなる,広大なクリエイティブ産業のプラットフォームである。さすがに台北だけあって、若い人で賑わっている。余談だが、ファブ・カフェは、3Dプリンターやデジタル・ツールを備えたカフェで、だれでも極めて安価に新しいデジタル・ツールを使ってもの造りを楽しめる新しい概念のカフェだ。

 

華山1914文化創意産業園区のファブ・カフェ内部

華山1914文化創意産業園区のファブ・カフェ内部

 

もう一つが、松山文化創意園区である。ここは日本時代にたばこ工場だった場所だ。デザイン・ミュージアム、デザイン・センター本部、イノヴェーション・センター、多数の展覧会場、ショップ、レストランなどが集まっている。華山に比べると、ちょっとオフィシャルな雰囲気があって人は少ないように感じた。しかし敷地の中には最近、エスリート(誠品)ギャラリーが参加して高層ビルが建設され、その上層には新しいデザイン・ホテルが入る予定だ。また下層部にはエスリートの経営するおしゃれな本屋と雑貨デパートが入っている。これも日本には見られない極めてユニークな開発事業だ。

 

松山文創園区の古いビルの内部

松山文創園区の古いビルの内部

 

この文化・クリエイティブ産業を中心とした新しい都市開発は、昨年末に六本木ヒルズ10周年記念のイヴェントとして開催した「イノヴェーティブ・シティー・フォーラム」のテーマともつながっている。このフォーラムは都市デザイン、イノヴェーション、創造産業(アートを含む)のオピニオン・リーダーが一堂に会し、新しいライフスタイルを考えるという趣旨のものだった。ソフト産業の重要さを十分に認識している台湾のこの状況を、日本も少し見習ってはどうだろうか。

 

「新美術新聞」2014年2月21日号(第1336号)3面より

 


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