[フェイス21世紀]:横山 芙實〈日本画家〉

2021年02月07日 12:00 カテゴリ:コラム

 

”ひとを描いて生きていく”

 

大和市内のアトリエにて(1 月6 日撮影)

大和市内のアトリエにて(1 月6 日撮影)

 

Artist Group―風―大作公募展に出品した《土と膚》には、パネルの画面に大きな裸体の女性像が描かれており、大地に横たわり、手足を動かすその姿からは泥臭くも懸命に生きていこうとする生命力を感じる。女性のモデルは横山と双子の兄を生んで間もなく寡婦となった母親だ。

 

《土と膚》2020  162 × 454㎝ 岩絵具・土絵具・パネル

《土と膚》2020年  162 × 454㎝ 岩絵具・土絵具・パネル

 
宮崎県に生まれた横山は短歌を詠む母、絵を描くことが好きだった双子の兄という芸術表現が身近な家庭環境で育った。自分の子供のことも短歌に取り入れるほど情熱を傾けて歌を詠む母親に対して理解に苦しみながらも絵が好きだった横山は美大を志し、女子美術大学日本画専攻に入学。大学在学時は一人で学費を工面する母を思い真剣に学んだ。「私は気質からするときれいなものを描いて褒められる人ではない。『評価』が欲しかったけれど、自分の表現を突きつめていこうと思ったんです」その突き詰めた先にあったものが“人間”、そして“母親像”だった。

 

日本画家の三橋節子の生き方に私淑し、小説家で詩人の岡本かの子の作品に触れ、母親でありながらも表現を続ける彼女らの人生を追い続けた。そんな女性たちの人生について知るうちに短歌を詠む母親からも大きな影響が及んでいることに気づく。

 

「一般的な“母親業”とは少し異なった母の生き方は私に葛藤をもたらしました。しかし離れて暮らす現在では、親しい友人の身の上話のように、未熟な一人の女性の迷いや選択の軌跡として感じられる瞬間があります」母はお腹を痛めて生んだ子供たちに向けて不器用ながらも短歌を詠んだ。時が流れ、母親が自分たちを身籠った歳に成長した横山は絵筆をとって母親の人生を描き出した。長い時間がかかったけれど、短歌を詠み、不器用ながらも生きる母を横山は赦すことができた。絵筆を持つ手で母の人生をそっと抱きながら。

(取材:岩田ゆず子)

 

(左)《私信》 145.4×91cm 岩絵具・土絵具・アートクロス 2020年 (右)《脈》 60.6×90.9cm 岩絵具・土絵具・アートクロス 2020年

(左)《私信》 2020年 145.4×91cm 岩絵具・土絵具・アートクロス
(右)《脈》2020年 60.6×90.9cm 岩絵具・土絵具・アートクロス

 

昨年から神奈川県大和市内のアパートを借りて制作を始めた。

《脈》は、モディリアーニが描いた裸婦がモチーフ。モディリアーニの絵は母親も自身の短歌集の表紙に使っていたという。

 

主に黒と白の岩絵の具、土絵具を用いて描く。

主に使用する画材は、黒と白の岩絵具と土絵具。「自分が表現したいものをより鮮明に描くことが出来る黒や白色を用いています。」

 

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横山 芙實(Yokoyama Fumi)

 

1992年宮崎県生まれ、2017年女子美術大学大学院博士前期課程美術研究科日本画研究領域修了。主な受賞歴に17年女子美術大学美術館賞(作品収蔵)、第6・8・9回―Artist Group―風―大作公募展入賞など。20年に銀座・純画廊にて個展開催。3月1日~11日Femmes展、5月に二人展を高輪画廊にて開催予定。

 


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