[フェイス21世紀]:楚里 勇己〈日本画家〉

2016年08月03日 17:59 カテゴリ:コラム

 

―暮らしを飾る 花の装い―

 

 

現代の住空間を彩る日本画を――日本画家・楚里勇己のテーマである。

 

鮮やかな花々がリズミカルに連なる装飾的な画面は、伝統的な「花鳥画」というよりも、広く一般的に親しまれる「花柄」と言い表す方が相応しいように思える。「極端に言えば、インテリアの一部として扱ってもらって構わない」と、何より“飾ってもらいやすさ”を意識し、明快で洗練された作品を心掛けてきた。

 

幼い頃から、院展に出品する父の姿を見ていた。自身も院展を目指して東京藝術大学の日本画科に入学した。しかし、大学に入ってみれば、選択肢はひとつだけではなかった。院展もあれば、創画展もある。いずれにも属さないという選択肢もある。「大学で学ぶうちに、美術の世界はどうしても内向きで、絵を買う人も限られていると気付きました。僕は、もっと一般の人に暮らしの中で絵を楽しんでほしい」。選んだのは「無所属」という道だった。

 

2011年、初個展は東京・青山のレストランだった。今でもレストランやカフェでの展示は、百貨店やギャラリーでの展示と並ぶ活動の軸だ。「そんな所で売れるわけがないと言われたこともあります。でも、美術に親しみのない人に絵を見て欲しいならば、そうした美術界の価値観を疑ってみる必要がありました」。花という普遍的なモチーフも、デザイン性、装飾性の追求も、何よりもまず目を向けてもらうため。百貨店のリビングフロアで、ショールームのように家具と作品を配置して見せることもある。「日常に近い切り口をどう増やすか。多くの人に興味を持ってもらうための方法を常に考えています」。やりたいことを理解しようとしてくれる人々と、ひとつの空間を作り上げることが「この仕事の醍醐味」だという。

 

渋谷西武での個展では、実際の家具とあわせて作品を発表した

 

今回の日本橋三越での初個展に際しては、ファッションブランド「ミラ・ショーン」「アクアスキュータム」とコラボレーションにも挑戦した。会場にも作品がプリントされたジャケットが展示されているが、こうした試みが出来るのも“属していない”ゆえだろう。「誰にも頼ることができないという不安もありますが、大胆に、自由にできるということを強みにしていきたい」。個展の出品点数はおよそ20点。ポピーや南天、桜、カエデなど、多様な花々が鮮やかに空間を彩る。和紙を重ねることで適度に輝きを抑えた金箔・銀箔の地を装飾する花々は、率直に「かわいい」「美しい」と思わせてくれるものだ。そのインテリアのような親しみやすさ、分かりやすさと同時に、素材や技法に徹底的にこだわった「100年、200年もつ」という丁寧な仕事も人気を集める所以だろう。

 

「カルチャーリゾート百貨店」をストアコンセプトに掲げる日本橋三越本店は近年、アートの裾野を広げる取組みを続けてきた。コレクターや美術愛好家というよりも、美術の世界の外にいる人々を想定して制作を続けてきた楚里の個展は、その意味で象徴的と言える。この個展をひとつの成果に、彼が今後どのような活動を展開していくのか、注目を続けていきたい。

(取材・文:和田圭介)

 

日本橋三越で開催中の個展にて。箔を用いながらも、嫌みのない落ち着いた輝きが心地良い

 

緻密に計算された構図、写実的な自然描写に魅了される

 

コラボレーションした「ミラ・ショーン」「アクアスキュータム」のジャケットも展示されている

 

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楚里 勇己 (Yuuki Sori)

 

1985年愛知県生まれ。日本美術院院友の楚里清を父に持つ。2010年に東京藝術大学美術学部絵画科日本画卒業。2011年に東京・青山のレストラン「アンレーヴ」にて初個展を開催し、現在は千葉県流山市を拠点に、全国の百貨店やギャラリー、レストラン、カフェなど幅広く発表を続ける。14年に伊藤忠商事企業カレンダーに採用。今年の「第4回 郷さくら美術館『桜花賞』」で奨励賞を受賞。日本橋三越本店にて、個展「楚里勇己日本画展 イロノツラナリ」を開催中。

 

「楚里勇己 日本画展―イロノツラナリ―」

【会期】2016年8月3日(水)~9日(火)

【会場】日本橋三越本店本館6階 美術サロン(東京都中央区日本橋室町1-4-1)

【TEL】03-3241-3311

【開館】10:30~19:30(最終日は17:00閉場)

 

【関連リンク】楚里勇己ホームページ

 


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