[フェイス21世紀]:茶谷 雄司〈画家〉

2016年04月11日 11:04 カテゴリ:コラム

 

絵具の重なり、想いの層

 

 

茶谷雄司のパレットの大部分は、グレーが占める。グリザイユという画法を用い、人物の肌を灰色で下塗りするためだ。出したいのは油絵ならではの「絵具の厚み」。黒みを敷くことで、複雑な質感を表現できないか。自らの写実絵画を求め続ける日々だ。

 

少女のふとした視線を捉え、繊細な感情の揺れを見せる茶谷。昨年の光風会展で損保ジャパン日本興亜美術財団賞を受賞し、今年3月には松坂屋名古屋店での個展が開催。そして今月1日に日展での会友推挙が発表されるなど、いま注目を集める一人である。

 

生まれは北海道札幌市。高校では美術部に所属し、『美術年鑑』の森本草介のページで写実絵画に出合った。浪人時代に光風会作家の西田陽二に学び、大学卒業後は帯広で3年、札幌で7年、美術教師を務める。帯広では相原求一朗美術館に通いつめた。2007年に一念発起し、妻とふたりで縁もゆかりもない埼玉へ。川越の名士・相原に引き寄せられたのかもしれない。現在は特別支援学校で勤務しながら制作に励む。

 

智内兄助の妖艶な少女像に魅せられてから10年以上、姪を描き続けた。3年程前、彼女が北海道から関東に越してきた際は、茶谷自身の郷愁の感情をその横顔に託した。絵具の厚みの中には、少女の想いと茶谷の想いがいくつものレイヤーとなって織り重なっている。

 

光風会展の開催を控え、改めて思うのは会への感謝。会の先輩や仲間達から受けた影響が、画家の今を形成している。

 

茶谷は現在転換期にある。姪のシリーズに区切りをつけ、新たな人物を描くことを決めたからだ。3月の個展では、花やアンティークをモチーフとした静物画にも初挑戦。人物をメインとしながらも、今後は静物や風景にも取組みたいと語る。もしかすると今までの画業は、茶谷にとって大切な「下塗り」だったのかもしれない。変化の最中で迷うことも多いが、その葛藤を超え、どのような色を重ねていくのか。

(取材・撮影:岩本知弓)

 

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茶谷 雄司 (Yuji Chaya)

 

1972年北海道札幌市生まれ。埼玉県川越市在住。現在光風会会員。96年北海道教育大学教育学部札幌校芸術文化課程卒業。2001年光風会展で、03年には日展で初入選。光風会展では10年会員推挙、15年損保ジャパン日本興亜美術財団賞受賞。今後は「第102回光風会展」をはじめ、「公募団体ベストセレクション 美術 2016」(5月4日~27日、東京都美術館)、「第1回光耀展Ⅲ」(8月17日~22日、日本橋三越本店)、「リオンソー展」(9月7日~13日、日本橋三越本店)などに出品。11月には日本橋三越本店で個展が開催予定。

 

「第102回光風会展」

【会期】 2016年4月13日(水)~25日(月)

【会場】 国立新美術館(東京都港区六本木7-22-2)

【TEL】 03-6812-9921(会期中のみ)

【休館】 4月19日(火)

【開館】 10:00~18:00(最終日は15:00まで、入場は閉館の30分前まで)

【料金】 一般700円 大・高校生500円 中学生以下・障がい者手帳持参者および付添者1名まで無料

 

【関連リンク】 「Yuji Chaya Oil Painting Site」

【関連記事】 「注目の写実画家・茶谷雄司の個展、松坂屋名古屋店で開催中」

 


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