[フェイス21世紀]:小野耕石

2015年03月13日 09:31 カテゴリ:コラム

 

「平面」を問う、「版画」を問う

 

「Hundred Layers of Colors」245×390㎝(75×90㎝の作品が12点) 油性インク、紙

「Hundred Layers of Colors」245×390㎝(75×90㎝の作品が12点) 油性インク、紙

 

「版画」の概念を覆す作品がVOCA展2015でVOCA賞を受賞した。その作品を作り出したのが小野耕石だ。東京造形大学時代に版画の世界へと足を踏み入れた小野。描画から摺りまでを1人で行う版画と出会い、「違和感を覚えた」のが全ての始まりだと語る。

 

「まずその違和感から解体していかなくてはと思い、版画の常識を問い直すことにしました」。版画は言わずもがな平面表現の一つであり、またそのサイズには限界がある。その常識とされる要素を一つ一つピックアップし、潰していった。試行錯誤の毎日で訪れたターニングポイント。それは夜のアトリエに飛び込んできた「蛾」と授業で習った「シルクスクリーン」だった。

 

シルクスクリーンを制作している中で偶然できた絵具の“毛羽立ち”と、蛾を観察する中で発見した“鱗粉の美しさ”がリンクした。この時、「版画の常識を越えながら、触覚的なものを絵具で表現できないか」という考えが生まれる。この偶然生まれたアイデアを「自分でコントロールできるようになるまで」数年の実験期間を要した。

 

RINZU(驎頭) 撮影:青地大輔

RINZU(驎頭) 撮影:青地大輔

Swimming silence(泳ぐ深閑‐映発) 600×600㎝ silkscreen 2010 撮影:青地大輔

 

突起状に摺り重ねられた絵具を蝉の抜け殻や動物の頭蓋骨に付着させる「立体」の制作経験。そこで培った技法を還元し、どこにもない平面に挑んだ。積層した絵具はハニカム構造(正六角柱を並べた構造)を意識して摺るため、その凹凸が見る角度によって全く違う表情を見せる。それは小野が「作品の中に“影”を取り込んだのが僕の平面の特徴かもしれない」と語るように、平面と立体を自在に行き来する。常識を疑い、新たな境地を切り拓く小野。VOCAという平面が競演する舞台で、その作品は多くの視線を引き付けることだろう。

(取材:橋爪勇介)

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おの・こうせき

1979年岡山県生まれ。2004年東京造形大学絵画専攻版表現コース卒業、06年東京藝術大学修士課程絵画専攻版画科修了。養清堂画廊(東京・銀座)やアートフロントギャラリー(東京・代官山)での個展を重ねるほか、岡山県犬島で開催されているアートプロジェクト「犬島時間」に第4回(07年)から毎年参加している。主な受賞歴に「Prints Tokyo 2007」大賞(07年)、「第2回NBC シルクスクリーン版画ビエンナーレ」大賞(09年)、「第3回 shiseido art egg」入選(09年)、「第3回I氏賞」奨励賞(10年)などがある。

 


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